機関紙

【第736号】平成27年7月1日発行(2015年)

2015年06月 公開

7月号の目次   「家族と健康」有料購読の申込みはこちら

1面 ・平成26年度 本会事業報告・決算報告承認

   ・編集帖

2面 ・レイプされ自殺した少女が法律を変えた

   ・IPPF加盟団体の認定証、本会に授与 他

3面 ・第13回思春期保健相談士学術研究大会

   ・市内すべての中学校における思春期出前授業の実施について

4・5面 ・スマホに子守りをさせないで!(母子保健指導員研修会より)

6面 ・シリーズ遺伝相談<4>聖路加国際病院遺伝診療部部長 山中美智子

   ・がんサミット開催 がん対策加速化へ 他

7面 ・海外情報クリップ(卵巣がんを予防する目的だけで卵巣を切除する/勃起不全治療薬だけでは性生活は満たされない/男性の性機能は運動で向上する)

8面 ・産婦人科医による性の健康教育<4>大隈レディースクリニック(佐賀県杵島郡) 大隈良成

編集帖

▼厚生労働省は、2035年を見据えた保健医療政策のビジョンを示す「保健医療2035」を公表した。これは急激な少子高齢化や医療技術の進歩など、医療を取り巻く環境が大きく変化する中で、国民の健康増進、保健医療システムの持続可能性の確保、保健医療分野における国際的な貢献、地域づくりなどの分野における戦略的な取り組みを提言したものである
▼健康保険組合などの保険者も、健康日本21(第二次)や特定健診に加え、本年度からはデータヘルス計画と、国民の健康を守るため、一次予防に重点を置いた保健事業を推進している
▼保健指導には、ハイリスクアプローチとポピュレーションアプローチがある。生活習慣に問題のある対象者に個別指導を行うハイリスクアプローチに対し、多くの人を対象とした講演会や集団教育など、地域や職場全体の健康づくりによって個々人の健康意識を高めるのがポピュレーションアプローチだ。この保健事業を、健康増進や疾病予防を目的に実施することで、国民の健康と生活の質の向上、社会保障費の負担軽減、社会経済活力の向上、という課題を同時に解決できる。最近では、超少子・高齢社会で労働力を確保し続けるため、企業も従業員の健康増進を経営課題と捉え、費用や人材の投資をすることが重要視され始めている
▼超少子・高齢社会において、希少かつ重要な人的資源は、子ども(若者)だ。若者が思春期から成人へと健康な状態で移行できる社会をつくることが、少子化対策や保健医療政策にとって重要だ。地域や産業という枠組みを超えた「切れ目のない」母子・乳幼児・小児・学童・思春期・青壮年・老人への健康教育、そして、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス教育といった保健事業の実施に期待したい。
(HM)

レイプされ自殺した少女が法律を変えた IPPF世界会議(バンコク)

思春期やせ症1.5%モロッコの法改正 中絶合法化も間もなく

 「2012年3月10日、15歳のモロッコの少女が自殺しました。法律によって、自分をレイプした男性と強制的に結婚させられたことが原因でした」。
 モロッコ家族計画協会の事務局長が静かな口調でこう語り始めた。モロッコにはレイプ加害者がレイプ被害者と結婚することで、1~5年の拘置を免れるという法律があるというのだ。
 「この法律のために数百万人の女性、特に10代の女性が犠牲になっていました。私たちは彼女の死を無駄にしてはいけないと、果敢に戦いを挑み続けたのです。そして、ついに、彼女の死から2年後、理不尽な法律を変えることができました。モロッコ家族計画協会は政治家を動かし、国を動かしたのです。それだけではありません。間もなく中絶も合法化されようとしています」。
 国際家族計画連盟(IPPF)の2013年実績報告によれば、モロッコ家族計画協会に限らず、セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR=性と生殖に関する健康と権利)を促進する政策・法律を97件改正したとある。
 5月12日から14日まで、タイのバンコクで開催されたIPPF主催のグローバル・ギャザリング(世界会議)。160か国・地域から、およそ300人が参加して開かれた会議での1コマである。英語、フランス語、スペイン語が飛び交う会場は、参加者で埋め尽くされていた。SRHRを主張する人々の集まりだから、初対面であることを忘れるほどの親近感をもって時間が過ぎていった。


運動の推進には 経済的な基盤が不可欠

 「寄付や補助金に依存するのではなく、ソーシャル・エンタープライズ(SE=社会企業化)を目指そう」。日本でもなじみの深いIPPFのテウォドロス・メレッセ事務局長の言葉には迫力がある。IPPFの会員組織にも、SEの成功事例は少なくない。61年の歴史を有する本会などはその一例であることは今さら言うまでもない。好事例として報告されたのは、タイとスウェーデンの経験だった。
 ここでは、タイでの成功事例の一つとしてIPPFの支援によって1974年に創立された人口・地域開発協会(PDA)を紹介しよう。
 創立者は「ミスター・コンドーム」と呼ばれているミッチャイ・ヴィラバイディア博士だった。彼は、PDAにおいて避妊、家族計画、HIV/エイズ対策に積極的に取り組んだ。訓練された看護職や助産師を通じてピルの服薬指導に当たらせ、結果として74年に1家族当たり7人だった子どもの数を2004年には1・5人に、人口増加率を3・3%から0・5%と減少させた。
 1年間に20万人の感染者が増えていたHIV/エイズ。ミッチャイ博士は、あらゆる社会資源を利用してコンドームの配布に努め、1991年から2003年の間に、HIV感染者を90%まで減少させた。
 世界銀行の評価によれば、この包括的予防プログラムによって05年に救われた命は770万人にも及ぶとされた。
 これらの運動を推進していくのに不可欠なのが、経済的基盤である。彼は、クリニックや学校を開設し、環境改善のために各地に公衆トイレを設置。貧困層が働ける農園を造ってその収穫をレストラン経営に役立てるなど、八面六臂の活躍をした。余談だが、レストランには「Cabbages & Condoms」(キャベツとコンドーム)というユニークな名前が付けられている。
 今では、PDAは600人を雇用し、1万2千人のボランティアを有するタイ最大のNGOとなっている。しかし、忘れていけないのは、全ては避妊・家族計画・HIV/エイズから始まったということだ。今までも、これからもSEを展開している本会にとっては、多くのヒントを与えられる時間でもあった。
 5月14日から17日までは、ESEAOR(東・東南アジア・大洋州)主催の事務局長会議が同じ場所で開催され、1年ぶりに再会した仲間たちと旧交を温めた。
(本会理事長 北村邦夫)

1507-2-p1.jpg世界各国から集まった参加者たち

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