<46>義務教育での性教育が行われるシステムを作りたい 埼玉医科大学 地域医学医療センター 高橋 幸子
義務教育での性教育が行われるシステムをつくりたい
高橋氏 |
埼玉医科大学地域医学医療センター 高橋 幸子
大学生の時
私が性教育に関わりたいと思ったのは大学6年生のとき、小学校時代の友人から聞いた話がきっかけでした。彼女は少年院に入院している中高校生とお話しする大学生のボランティアをしており「問題点? 性感染症、やばいよ」と教えてくれました。進路が決まっていなかった私は「思春期の性感染症を予防する性教育」をしようと、小児科、精神科、泌尿器科、産婦人科、皮膚科の中から一番思春期女子に身近でいられて、困ったときに助けてあげられる科、と思い産婦人科医になるコースを選びました。5年生のときに体外受精の治療を受けている女性に出会い、性感染症による不妊症の治療を目の当たりにしたこともきっかけの一つです。
6年生の夏休みには日本家族計画協会を訪れ、無謀にも「ここで働くにはどうしたらいいですか」と北村邦夫先生に尋ねました。当然ながら「ここは研修施設ではないから、一般的な産婦人科の勉強をしてからまた来てね」というのが北村先生のお返事でした。
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日本家族計画協会とのつながり
それから10年の月日が経ち、月に2回日本家族計画協会のクリニックで外来診療のお手伝いをさせていただくようになって3年目になりました。「ここで働きたい」という夢が叶いました。北村節炸裂の先生のカルテをのぞき込めること、研究にはうってつけのデータの宝庫であること、そしてこの避妊教育ネットワークのつながりが宝物です。
大学生への性教育
中高校生にお話しする機会をいただくまで私は、身近にいる大学生に向けて性教育を始めることにしました。産婦人科実習に2週間回ってくる医学部5年生4人対私。2時間みっちりの小グループ教育で「避妊」と「命に関わる性感染症」(詳細はブログ「みない夢は叶わない」をご参照ください)についてお話ししてきました。小グループのいいところは、大学生自らが自分の経験を語ってくれることです。中高校生にお話しさせてもらうネタを拾っています。
大学生への性教育のまとめを公衆衛生学会で発表したとき、二つ隣で発表されていた釧路市の保健師さんにスカウトされ、5年前から1年に1回釧路市で高校生への性教育講演をさせていただくようになりました。
性教育活動
研修医の間、性教育活動は全くできませんでした。専門医を取得し、産婦人科医として7年目の夏、やっと中高校生への性教育の依頼が舞い込んできました。「子どもの健康を守る地域専門家総合連携事業」というシステムによる依頼でした。私が性教育をやりたがっている〝変わった〟産婦人科医であることをご存じだった医局の教授が、やってみるかと振ってくださいました。
5年目に出産を経験し復帰したところでしたので、私の出産ビデオ(7分)を講演の最後に上映するスタイルはこのときから始まりました。釧路市や埼玉県内で年間30件の講演をするようになった今でも、このビデオは「命の誕生の素晴らしさ」と、「私の性教育への思いと決意」を伝えてくれると思っています。今思うと、初めての講演は病気や避妊の「説明」に終始したつたない講演でした。力不足を感じ、「思春期指導者養成講座」を受けて、「心に響く」内容にリニューアルしました(現在の中高校生向けの講演内容はブログ「カレシができたら読むブログ」をご参照ください)。
これからの私
「臨床5年の後は予防医学ができる基礎へ」と考えていましたが、早いもので13年の月日が経ち、2013年12月より基礎医学教室である「地域医学医療センター」に異動し、研究者という立場になりました。まず目指しているのは群馬県や釧路市のように、埼玉県内の義務教育での性教育講演を行えるシステム作りです。埼玉県内の「思春期の子どもたちのためを思って活動している人々」の想いを束ね、講演できる医師、助産師、養護教諭などを育成できる組織作りにも取り組みます。
産婦人科との兼担という形でSCAP(埼玉医科大学子ども養育支援)の活動も継続し、新たに思春期外来をオープンさせていただきつつ、臨床と研究の両輪で進んでいきたいと思います。
最後に、登校してこないような、よりハイリスクの子どもたちへのアプローチは長年の懸案事項でしたが、地元の子どもサポートとつながり少年院入院中の子どもに対する性教育のチャンスを頂きました。振り出しにつながったわけです。これからも夢を持って思春期を守る性教育活動に、ぶれずに取り組んでいきたいと思います。
【略歴】
2000年山形大学医学部卒業。01年埼玉医科大学総合医療センター研修医、03年埼玉医科大学病院産婦人科助教、13年12月より埼玉医科大学地域医学医療センター助教。11年より日本家族計画協会クリニック非常勤医師