機関紙

<24>武久レディースクリニック顧問 佐藤孝道

2017年03月 公開
シリーズ遺伝相談 特定領域編12

産婦人科領域における遺伝性疾患と今後の展望



武久レディースクリニック顧問/NPO法人日本不妊カウンセリング学会理事

佐藤 孝道


妊娠・出産

 「遺伝性疾患」というと親から子どもへ何らかの形質が引き継がれることと考えられがちですが、ここでは病気の発生に細胞遺伝学的機序が関与していれば、それを「遺伝性疾患」としました。
 産婦人科と遺伝というと、まず思い当たるのは、妊娠・出産です。本人自身はもちろん、パートナー、すでに生まれた子どもや近親者に先天的な病気があったり、あるいは高齢妊娠であったりと、先天異常や遺伝に関する不安は尽きません。
 子どもをつくることは、自分たちの将来を自分たち自身の手で創造することです。いわば「未知の世界」へのチャレンジ。近親者に先天的な病気がなくても、不安です。もし近親者に先天異常があれば、なおさら不安は大きくなります。その不安に向き合い、正確で公正で最新の情報を得て、どう対処するのが最適か、周囲からの圧力に影響されずに、カップル自身が決定する場を提供するのが遺伝カウンセリングです。そしてその手段の一つに出生前診断があります。


排卵について
 婦人科領域でも、遺伝がさまざまに関係します。今回はそのうち卵巣の、しかも排卵に限ったことだけを書きます。
 卵巣には卵子を入れた原始卵胞があって、それが発育して胞状卵胞やグラーフ卵胞がつくられ、周期的に排卵します。原始卵胞は胎児期に700万個ほどつくられ(胎児期しかつくられません)、思春期にはすでに30万個程度にまで減少、閉経期にもなお千個程度残っています。
 では、思春期から閉経までに30万個近く排卵するかと言えば、そんなことはありません。1周期に1個排卵するとすれば、1年間に12個、40年間としても500個弱しか排卵しません。つまり胎児期700万個はもちろん、思春期の30万個の原始卵胞の大部分は閉鎖卵胞となって、排卵することなく消えていきます。
 さらに、不思議なこともあります。どうして同時にみんな排卵しないのでしょうか。どうして少しずつ排卵して、40年近く排卵し続けるのでしょうか。いまだほとんど解明されていませんが、少しずつ排卵するように、さまざまな遺伝子が関与しているのです。これらの機構に障害が起こると、原発性卵巣機能不全(POI=primary ovarian insufficiency)と呼ばれる病態が起こります。
 閉経の平均的な年齢は51歳頃ですが、40歳より前に卵巣に原因があって無月経になった場合、これをPOIと呼びます。POIには、胎児期につくられる原始卵胞の数が少ないために早く原始卵胞がなくなってしまう場合(例:家族性46、XX性腺形成不全)や、原始卵胞の減少スピードが加速するために早く原始卵胞がなくなってしまう場合(例:脆弱X症候群やターナー症候群)があります。このようにPOIには遺伝性疾患が少なくありません。一方、後天的なPOI(例えば、手術で卵巣の大部分が切除されたり、卵巣に放射線が照射された場合)もあります。
 一方では、月経は女性にとって月経困難症など煩わしさの対象かもしれません。しかし、他方では女性としてのアイデンティティーの証左です。若くして無月経になることは深刻な打撃を女性に与えます。
 日常的な臨床の現場では、遺伝的背景を踏まえて、個々の女性のアイデンティティーに配慮した診療が求められます。これからの医療は、いわゆる証拠に基づく医療(EBM=evidence-based medicine)とともに、個別化した医療が求められます。
 婦人科の分野でも、遺伝の問題は個別化を考える一つのツールと言えます。

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