機関紙

<23>国立障害者リハビリテーションセンター 石川浩太郎

2017年02月 公開
シリーズ遺伝相談 特定領域編11

遺伝性難聴



国立障害者リハビリテーションセンター

病院 耳鼻咽喉科 石川浩太郎


難聴とは
 皆さん、難聴の原因と聞いて何を想像されるでしょうか。まずは簡単に難聴の解説をします。
 音は空気の振動が外耳道を通って鼓膜に伝わり、その振動が中耳内の耳小骨に伝わります。さらに耳小骨の振動は内耳の中にある外リンパへ伝達され、内耳の有毛細胞が外リンパの振動を電気信号に変換します。これが聴神経から脳へと送られ、音として感じることができます。
 音が耳の中で伝えられる部分での障害で起きる難聴が伝音難聴、音を感じる部分(内耳以降)での障害で起きる難聴が感音難聴です。伝音難聴の多くは原因が判明し、治療に結び付けられます。手術で聴力改善ができるものが多く、治療が難しい場合は補聴器で対応します。一方、感音難聴はこれまで原因が判明するものは、その一部のみで、治療が難しいものがほとんどでした。


難聴の原因診断
 難聴に遺伝子が深く関与していることが、最近の研究で明らかとなりました。先天性難聴は千人に1人と頻度の高い先天性障害の一つであり、その約60%は遺伝子が関与しているといわれています。また先天性難聴のみならず、幼児期や学生時代、また成人になってから症状が出るものも多く、これらにも難聴遺伝子の関与するものが多くあります。
 先天性難聴の発見には、産婦人科で実施される新生児聴覚スクリーニングが大きな役割を果たしています。また、家族が音への反応の悪さに気付く、言葉が遅い、患者自身が難聴を自覚するなどの理由から難聴が診断されます。
 各種聴力検査で難聴の重症度が診断されると、原因検索とともに補聴器などを利用した補聴を並行して行います。原因検索の方法として各種の精密聴覚検査、CTやMRIなどの画像検査、保存乾燥臍帯(へその緒)を用いたサイトメガロウイルス感染検査、そして難聴遺伝子検査が挙げられます。
 これらの検査結果で得られた難聴の原因に基づいて、より効果的な療育を選択するというのが、今の難聴診療の大きな流れとなっています。


遺伝子診断とその役割
 現在、日本で行われている難聴の遺伝子診断の仕組みと方法を説明します。
 難聴の遺伝子診断は健康保険で対応できる部分と、研究で行われている部分の2階建て構造になっています。どちらも採血検体で検査します。健康保険で行う検査は、日本人の難聴原因に多いことが判明した19遺伝子の154変異を検査するものです。
 この検査で30~40%の方の難聴原因遺伝子が同定できます。しかし難聴に関与する遺伝子は100以上存在するといわれており、健康保険検査では原因遺伝子が同定できない場合も多く見られます。そこで信州大学を中心に共同研究体制が組まれており、より詳細な検査を研究レベルで行う仕組みになっています。
 遺伝子変異が原因の難聴は、家系内に難聴者が多い場合のみならず、患者が家系内で唯一の難聴者である場合も認められるので、どのような難聴の方でも検査を受ける意味があります。
 原因遺伝子変異が同定されると、どのような利点があるのでしょうか。残念ながら現在では、難聴の根本的な治療には結び付いていません。
 一方で、補聴器での聞き取りが難しい場合に人工内耳手術を行った場合の効果予測や、この難聴が進行するかどうかの判断、難聴の進行を予防する方法(頭部外傷を避ける、アミノ配糖体系抗菌薬を使用しないなど)の発見、難聴以外の合併症状(糖尿病、網膜色素変性症など)が発生する可能性の把握など、各患者で得られる情報が増えます。これらの情報を基に、患者個人にあった療育を選択することが可能となります。


難聴への対応
 これまで記した通り、難聴は多くの場合に根本的な治療は難しく、補聴器や人工内耳の使用、手話を利用するなどのコミュニケーション方法で、長期間付き合っていく必要があります。これは乳児から高齢者まで共通の問題です。
 補聴器の選択、リハビリテーションの方法、教育施設や労働環境など、さまざまな情報の一つとして難聴の遺伝子診断を上手に使用しながら、難聴と向かい合っていくことが重要と考えます。
 医師、言語聴覚士、認定補聴器技能者、ろう学校の教員、保健師、行政の担当官、患者団体の方々など、多くの専門家と相談しながら、より良い難聴との共存ライフを過ごしていただければと思います。

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