機関紙

<36>綜合病院山口赤十字病院(山口県山口市) 申神 正子

2018年03月 公開
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申神 正子
産婦人科医による性の健康教育~私のキーワードはこれだ! その36

自分を好きに、自分を大事に



綜合病院山口赤十字病院(山口県山口市)

 申神 正子


全国一田舎な県庁所在地で

 私の勤務する綜合病院山口赤十字病院は、山口県中央部、全国一、田舎な県庁所在地にあります。新幹線は止まりません。四方を山に囲まれていますが、他の地域と変わらず、思春期の子どもたちが生活しています。
 そして最近は、若年の妊娠・中絶、性感染症、両親や義父母による暴力、性的虐待、不登校、ソーシャル・ネットワーキング・サイト(SNS)を使ったいじめやうわさ話、児童養護施設での性的被害など、都会と同じような問題が起きています。


金曜日の午後は特別外来

 当院は、地域基幹病院なので、飛び込み受診や、第一線での診察は少ないのですが、学校の保健の先生、児童養護施設、警察、もしくは小児科医からの紹介があって受診される場合が多いのです。
 性的虐待などで児童相談所からの紹介がある場合には、まず電話で相談があります。十分な時間をとれるよう、一般外来の患者が少ない金曜日の午後に予約を入れます。施設の先生が同伴して受診されるのですが、まずは、先生に診察室に入っていただき、状況を教えていただきます。
 先生から背景を聞くと、実に大人の身勝手さが浮き彫りになります。同時に、子どもたちが哀れで仕方ないという気持ちが湧いてきます。子どもたちは、この先、誰を信じて生きていくのでしょう。心身共に成長過程であるのに、すでに性的に暴露されてしまった、それをどう受け止めているのでしょう。夢や希望はいったい...と話を聞きながら涙することも多々あります。
 その後、子どもと二人きりで話をします。最初は全く発語がないことが多いのですが、今日の来院の目的は、「あなたの身体を守ろうとしている」こと、そこが中心なのだと伝えます。
 その後は、再来院の機会を何度か設けて、結果を報告しながら、子どもに話し掛けます。そのときも、「時間をかけなくてはならない子どもたちなのだ」と自分に言い聞かせています。
 通常であれば、両親、先生や、周りの大人たちが手本となり、先輩となって、子どもたちはその大人たちに反発しながらも学んでいく大切な思春期に、身勝手な大人によりその歩みを狂わされたのです。ならば、時間をかけ、われわれ産婦人科医師や、施設の先生、看護師たちが関わり、身体を守ることが大切なのだということ、私たちのように「あなたを大切だ」と思う人間もいることを理解してもらえるように、日々診療を続けています。徐々に子どもに笑顔が出てくると、ほっとします。


外来治療の実際

 外来では、さまざまなケースがあります。
 保育園の頃から義父に性的暴行を受け、小学校6年生で保護、性的な問題が明るみに出て中学2年生で当院を受診した子の子宮頸部細胞診でASC︱Hが出たことがありました。今なお継続観察中ですが、怒りしかありません。
 実父からの性的暴行があって検査をしたケースでは、児童養護施設入所中に子ども同士の性交渉で妊娠した例もありました。
 施設の先生方は、ピルへの理解がまだまだ薄く、「かえって性的行動に駆り立てるのでは」と考える先生もいます。ですが、今回の事例をもって、ピル内服で望まれない妊娠が防げること、マイナスにはならないことをあらためて説明していこうと思っています。


産婦人科医師として

今年1月、安倍晋三首相が施政方針演説で、「子どもたちの誰もが、夢に向かって頑張ることができる。これが当たり前となる社会を創ることは、私たち大人の責任であります」と述べましたが、これは私たち産婦人科医師の責任の一つを表してもいます。
 子どもたちには、自分を好きになってほしい。自分が好きになれば、自分が大事になります。そうすると、関わる相手をおもんぱかる余裕も出てきます。夢や希望も出てきます。
 われわれ産婦人科医師は、万能ではありません。しかし、子どもたちが未来に向けて成長する一過程を支援し協力する立場として、今後も頑張っていきたいと思います。


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申神氏の性教育講演風景

【今月の人】 申神 正子


山口県萩市出身。1993年、島根大学医学部付属病院に医員として入局、研修時期を経て助教までを過ごす。97年から秀明会小池病院産科婦人科麻酔科医員、2010年9月から綜合病院山口赤十字病院女性診療科部長、現在、同病院第二産婦人科部長。

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