<25>さとこ女性クリニック(山形県山形市) 井上 聡子
井上 聡子 |
産婦人科医による性の健康教育~私のキーワードはこれだ! その25
自分の人生をプロデュースする!
さとこ女性クリニック(山形県山形市)
井上 聡子
山形の女性はいまだに「おしん」?
ブランド米「つや姫」の母を名乗る女性知事を擁するわが山形県ですが、私が日々の診療でお会いする山形県の女性たちはといえば、子育て世代の女性労働力率、共働き世帯率、3世代同居率ともに全国1位。その反面、4年制大学進学率、最低賃金、所得はいずれも30位以下。つまり、自分の夢やキャリアは後回しで、いまだに嫁、妻、母としての生活に追われる「おしん」なのです。
彼氏に嫌われたくなくて、約束と称したたくさんの束縛から逃れられず、断り切れず緊急避妊薬を希望して来る18歳。結婚していなくて、「パートナーが子どもを望んでいないから産めない...」とエコーで胎児の心拍を見ながら唇をかむ28歳。男女共同参画社会の推進、雇用機会均等法を後ろ盾に、これまで男性社員と対等に働いてきて、「さあ妊活」と思ったときには卵子の老化が見られた総合職の38歳。そういう方々がいる一方で、今の時代は少子化なのだから妊娠適齢期にさっさと子どもを産みなさいと周囲から言われる女性たち。私は、女性が自分の生き方を自分の意志で決めていない、決められないことによる後悔と無力感の涙をいくつも目の当たりにしてきました。正しい知識・情報がない、学ぶ機会がない、相談できる人がいないということが大きな問題なのです。
「女性の皆さん、彼氏やパートナー、国の政策にも左右されないで、自分の人生は自分自身でプロデュースしてください。皆さんの最強の応援団、そして身近な相談役になりたいと思っています」。この気持ちが今の私の活動の原動力です。
ピルでライフデザインを
木曜日は性教育講話の日と決まっていて、中学校、高校を中心に年間30校ほど訪問します。
月経のトラブル(月経痛、月経不順、月経前症候群[PMS])は、日常診療の主訴として最も多いものですが、実は多くの中学生、高校生も悩んでいます。本人や親、教師が、婦人科を受診する・させるという発想がないため、我慢しているだけなのです。
性教育を行った学校で、中学2年生の女子から言われたことがあります。「相談するために産婦人科に行っていいって知りませんでした。なんだか第2のお母さんみたいですね」
その通り! そしてその対策にはもちろんピルを使います。子宮内膜症や不妊症の予防のためにも「今すぐ妊娠したい」と思うまで飲み続けるのがお勧め。親には言えない避妊のニーズがあるならなおさらです。
スポーツ大会、修学旅行や、受験のための月経移動はもちろんのこと、将来子どもを産む・産まない、いつ産む、何人産む...など、全てが思い通りになるわけではないけれど、よりハッピーなライフデザインのためにピルを活用してほしいものです。
この性教育講話は、男女一緒に聞いてもらうものなので、男子・女子がお互いへの理解を深めてもらえるように心掛けながら話をしています。そして、できる限り男子特有の悩みにも触れ、専門医の紹介もしています。
異業種のつながり
昨年夏、"人間と性"教育研究協議会全国夏期セミナーを山形で開催しました。教育、医療、行政、法曹とさまざまな職種から参加者が集い、その数は400人を超えました。SNSのトラブル、性被害、貧困。こういった複雑で解決が難しい問題も、異業種の仲間と顔の見える連携が取れればサポートの幅が広がります。
女性アスリートの3主徴(エネルギー不足、無月経、骨粗しょう症)に対して、医師は結果を診ることが主な仕事です。しかし、健康を守るという観点からは予防が欠かせません。その最重要事項は栄養。実際に指導を担っているスポーツ栄養士の仲間からアドバイスを受けながら、目下スポーツドクターの勉強中です。
以前、性教育講話の感想で小学2年生の男子からこんなことを言われました。「お医者さんにも分からないことがあることが分かって面白かった」
そう、50歳間近の私自身も、まだまだ人生のプロデュース進行中でございます。
井上氏の性教育風景
【今月の人】 井上 聡子
1993年、山形大学医学部卒。医学博士。2004年、さとこ女性クリニックを開業。
山形県産婦人科医会常務理事、日本医師会認定健康スポーツ医、"人間と性"教育研究協議会山形サークル代表。11年、山形県男女共同参画社会づくり功労者知事表彰。