<23>やすひウィメンズヘルスクリニック(長崎県長崎市) 安日 泰子
安日 泰子 |
産婦人科医による性の健康教育~私のキーワードはこれだ! その23
性教育って楽しい!
やすひウィメンズヘルスクリニック(長崎県長崎市)
安日 泰子
大学で繰り広げられる性教育
長崎大学で1994年に開講された性の講義を担当してから、学生たちからたくさんのことを学びました。継続して数か月間関わる中で、大切にすべきは学生たちの言葉だと思うようになりました。この講義は、産婦人科医、泌尿器科医、助産師、経済学者が講師を担当するオムニバス形式。私は、産婦人科医として、この講義の4分の1を受け持っています。
講義の最終盤に、「性行為における同意とは何か」というテーマでレポートを求めます。彼らの先輩が書いたレポートの中で印象深いものを「ピアメッセージ」としてまとめてあるのですが、それを読んだ上で考えたこと・感じたことや意見を出してもらうのです。すると、リアルなやりとりが始まります。
女の子が闘っているコト
まず、先輩(女子)のピアメッセージとしてこんな投げ掛け。
「妊娠するかもしれないという不安と女の子が闘っているコトに気付いてほしい。こういうコトを自分で直接伝えるのが理想なんだろうけど、なかなか難しいのでこういう授業の形で男の人に女の子の側の気持ちが伝わればいいなあと思う」
「闘っているコト」という言葉がヒットするのか、その後たくさんの反響があります。
例えば、A君(男子)からは、「自分は女の子がそのような不安を持っていることをあまり考えられなかった。避妊するから大丈夫だろうと考えていた。しかし、女の子からしてみれば、それでも不安なのだと思う。男の子はその不安は持ち得ないことだから、あまり何も言えないが、その不安が、男性が女性にセックスをしようと要求しても同意が得られない、女性ならではの壁だと思う」。
おお、よく気付いたではないか、A君! すると、A君の言葉を受けてBさん(女子)は、「ピアメッセージを読んで、特に心に残ったのが『妊娠するかもしれないという不安と女の子が闘っているコトに気付いてほしい』という文だ。同じように悩んでいる人がいてすごく安心した。また、A君のメッセージも私にとってすごくうれしい文だった。この言葉は世の中の男性全員に伝えたい」。
大人である講師の役割は、こんな自由なやりとりを保障することと思えてきます。
互いの心地よさに基づくYes=同意
「女性のストレートな意見を聞く大変貴重な機会でした。今まで『おっ! これはシたいのサインだ!』と思っていたことが、実はそうでもない可能性があることに気付きました。今まで身勝手であった自分を反省するとともに、自分が心地よくなるだけでなく、相手にもぜひ心地よさを味わってほしいと強く思うに至りました。このように、互いに心地よさを感じ合いたいと思うときに『Yes』ということがこの講義で私が考え出した同意です」(男子)
「たくさんの男性の意見を読んで、たくさん知ることや考えることがあった。男性の優しさや思いやりを知って、心が温まったし、男性の迷いや悩みを知って男性のデリケートな面も知った。たくさんの女性の意見からも、強くなろうとする女性のかっこよさが見えたし、女性の一生を180度変えてしまう妊娠に対する、それぞれの立ち向かう姿も見ることができた」(女子)
インターネット上の仮想空間では得られないリアル。「同意は大切」という大人の願いは、彼ら自身の経験を通した言葉に翻訳されていきます。その説得力には"感服"の一言。そして、これらは中高生に対するメッセージとしても有効なものとなります。「大学生のお姉さんやお兄さんもセックスに悩みつつ、こう言っているよ」と。
性にきちんと向き合うと人は変われます。そんな変容を間近で見る楽しさが、性教育にはあります。これこそが教育の醍醐味ではないでしょうか。
講義で配布したコンドームを手に、記念撮影する受講生と安日氏(前列左)。講義では、学際的な視点から"性と生"について学んでいく
【今月の人】 安日 泰子
1979年、東京女子医科大学卒。現在、やすひウィメンズヘルスクリニック院長、および長崎大学医学部非常勤講師。長崎県"人間と性"教育研究協議会代表。