機関紙

<20>産みたい時に産むために今できることから始めよう 神谷レディースクリニック(北海道札幌市) 岩見 菜々子

2016年11月 公開
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岩見 菜々子
産婦人科医による性の健康教育~私のキーワードはこれだ! その20

産みたい時に産むために今できることから始めよう



神谷レディースクリニック(北海道札幌市) 岩見 菜々子



避妊教育ネットワークでの出会い


 私が産婦人科を志した当初、後期研修医として勤務していた病院の外来で気付かされた矛盾がありました。
 妊娠を強く望むものの、妊娠しないため、不妊治療を求めて来院された患者さんを診たと思ったら、その次の患者さんからは「妊娠してしまいましたが、継続できず困りました」と言われ、中絶手術の相談を受け、診療に当たる...といった現実でした。
 産婦人科医として、女性が産みたい時に産めるようにするために何ができるのか疑問を抱きながらも、実際に行動できず数年がたった頃、大学を離れクリニックに勤務することとなりました。そして性教育に興味があったことから、全国性教育指導セミナーに参加させていただき、避妊教育ネットワークの先生方に出会いました。そこで性教育について積極的に取り組む先生方の熱意に大変感銘を受け、私も実際にネットワークに加入させていただき、私の性教育への関わりがスタートしました。現在では道内を中心に年に数回講演の場を頂き、性教育指導セミナーやネットワークを通じた勉強会で学んだスペシャルワードを交えながらお話しさせていただいております。


人生設計のために必要な知識を
 2年前より、私は不妊症専門のクリニックに移り、診療を担当する患者さんの90%以上が妊娠を望んで来院される方々、という環境に変わりました。そこで直面したのが、不妊の原因となるクラミジア感染症や子宮内膜症の罹患率の高さです。知らず知らず感染したクラミジアや、ずっと我慢し続けた月経困難症の原因である子宮内膜症の悪化が、卵管周囲癒着や卵管閉塞をもたらし、自然妊娠への道が閉ざされてしまうことがあります。この事実は、産婦人科医としてもとても悲しいです。疾患の予防と早期治療についての知識をもっと広めなければという思いに日々駆られます。当院ではブライダルチェックという外来も設けており、最近は若い方の受診も増えてきました。受診のきっかけを聞くと、女性がキャリアを積むようになり、出産・子育てのタイミングをいつにするのか、自分の妊孕能を知った上で考えたい、という思いを持っている方が多くなっています。女性の卵子数は限られており、37歳頃からは数の減少率の増加、卵子の加齢から妊娠率が著明に低下していきます。また、年齢平均よりも卵子の数が極端に少ない方もいるため、30歳頃で自分の卵巣の状況をあらかじめ知っておくことは、将来の人生設計の上でとても大事なことだと思います。さらに、日本では女性の喫煙率がなかなか減少しませんが、喫煙が卵子数の低下や質の低下をもたらすことを性教育の場で伝えていくこともわれわれの任務と思っています。
 そして男性にも、女性が出産をできる期間が限られていることを知ってもらうことがとても大切です。不妊症外来では男女の妊娠へ向けての温度差を感じることが頻繁にあります。子宮内膜症のある女性にとっては早期に妊娠を図ることが子宮内膜症の治療ともなりますし、卵子の数が限られている場合には数年後には妊娠が難しくなる可能性もあります。精子は日々つくられますが、卵子は生まれた後つくられることはないのだという点を男女の体の違いの一つとして小さい頃から知ってもらうことが、結婚や妊娠を考える際に、希望する妊娠をかなえるもう一つのポイントだろうと考えています。
 私は産婦人科医として産みたい時に産める体をつくっておくこと、自分の体について知っておくことの大切さを性教育の中で伝えていきたいと思っています。

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岩見氏の講演会風景



【今月の人】 岩見 菜々子

2005年3月札幌医科大学卒業。同年4月から初期研修医として札幌社会保険総合病院(現在は札幌北辰病院)、札幌医科大学附属病院に勤務。その後は、07年5月から板橋中央総合病院にて産婦人科後期研修医、09年7月から札幌医科大学附属病院産婦人科、11年10月からレディースクリニックぬまのはた、13年4月からとまこまいレディースクリニックにて勤務し、14年6月より現在の神谷レディースクリニックに勤務中。

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