<14>学校を生きる力をつける場所に 宮益坂メリーレディースクリニック(東京都渋谷区) 長岡美樹
長岡 美樹 |
産婦人科医による性の健康教育~私のキーワードはこれだ! その14
学校を生きる力をつける場所に
宮益坂メリーレディースクリニック 長岡 美樹
孤立する子どもたち
私のクリニックは、若者の街・東京渋谷にあります。場所柄、若者と関わることが多く、日々さまざまな問題を感じています。
貧困、生活知識経験の不足、未成熟な心。家庭の養育機能不全状態がうかがえ、問題の大きさに戸惑いを覚えます。
学費や生活費のために風俗で働く女子学生は本当に存在しますし、OC(ピル)やコンドームの避妊を指導しても、高くて買えないという方もいます。月経痛や風邪のときの簡単な対処や栄養の知識もなく、保険証や住民票の仕組みも分からない。自己肯定感が低く、誰かに相談することさえ諦めてしまっていて、安易な方法で自分をごまかしている。
親も精一杯なのでしょうか、見た目普通そうにしていれば、気に掛けないようです。早く自立させたくて、孤立させてしまっているように感じます。
最低限の生きる力を
この状況は、渋谷が特別というわけではないと思います。
若者たちは満たされないものを抱えたまま、それでもそれぞれ必死に生きています。そんな中でいろいろなトラブルに巻き込まれることがあるのです。
親や社会が悪いと嘆いていても仕方ありません。私は学校に所属しているうちに最低限の生きる力をつけてあげたいと考え、産婦人科医の立場から性の健康教育に携わっています。
性の健康教育のポイント
ここで実践のポイントをご紹介します。
①事前に学校側との打ち合わせを行う
性感染症の知識、月経の仕組み、妊娠の仕組み、避妊、デートDV、ライフプラン、病院のかかり方など生と性(生きる生と未来につなげる性)に関わることは何でも要望に応じてお話しします。保護者から寝た子を起こすなと、ご意見をいただくこともありますので、学校教育の一環という立ち位置は大事にしています。また、先生方と思いを共有することで年に一度の講義でも効果を持続させたいと考えています。
②講義終了後に質問の時間をとる
彼に浮気されたがどうしたらいいか、おりものが臭うが性病か、生理痛がひどいがどうしたらいいかなど、いろいろな質問が出ます。言葉をさえぎらず最後まで聞き、率直に答えます。
③多様な生徒がいることに配慮を忘れない
妊娠・出産の仕組みを説明したところ「女性が必ず出産しなければならないように思えて嫌だった」と感想をもらったことがあります。
中絶や虐待の経験者、性同一性障害、複雑な家族環境など、メッセージの出し方によっては傷つけてしまう場合があります。
自分の常識で自己満足な講義にならないように注意が必要です。
④自分の気持ちや弱さに気付き、自分も他人も大事にできるように「人にどう思われるかより自分がどう感じるかを大事にするように」「あなたは自分の感じたことを主張していい。価値ある存在である」というメッセージを伝える
性の健康教育に与えられた役割は、性感染症や妊娠の知識を与えることにとどまらず、生きることそのものの指針を示すことも必要な時代になっています。
あなたに幸せでいてほしい、そう本気で思っている大人がいるよ、困ったら相談してもいいんだよと伝えたい。微力ながら、この活動を続けていきたいと思います。
長岡氏の講義風景
【今月の人】 長岡 美樹
1990年、日本大学医学部卒。同大学で研修、関連病院勤務後、2011年、宮益坂メリーレディースクリニック開業。東京産婦人科医会学校保健委員。