<11>恋愛も子育ても、生きていくのも覚悟を持って 針間産婦人科(山口県宇部市) 金子法子
金子 法子 |
産婦人科医による性の健康教育~私のキーワードはこれだ! その11
恋愛も子育ても、生きていくのも覚悟を持って
針間産婦人科 金子 法子
相手を大切に思うこと
山口県で、性教育に関わるようになって、気が付けばもう、16年の歳月が過ぎました。分娩も扱う一開業医として、日々、全ての命が望まれて生まれるようにと願いながら、出産まで寄り添っています。その一方で、予期せぬ若年妊娠への対応や、愛された実感のないまま大人になった女の子たちと向き合うことも多く、何ができるのか、自問自答しながら、性教育講演を通して、生きていくことについて話しています。
私が講演の際、いつも心にとめているのは、いろいろな家庭環境で育った子どもたちに対して「大切に育てられた、たった一つのかけがえのない命」など、傷つける言葉を使わないことと、避妊や性感染症の知識を教えるとともに、分かっていても、どこか寂しく、誰かに優しくしてほしいと思う子どもたちが、性交などに興味を持ってしまうことを、理解共感した上で話すということです。
思春期とは、自立能力と生殖能力を獲得する8~18歳までという定義も、「自立能力=1人で何でもできる能力」ではなく、つながりの中で「人のために何かができる能力」であり、「生殖能力=子どもをつくる能力」とともに「相手の体を慈しむ能力」だと、まず相手を大切に思うことができるという意味だと伝えます。
頼れる大人がいること
中学生の段階で、避妊方法や妊娠週数の数え方を教えることは、最初は自分とは関係ない話と、驚く生徒や保護者さんもいます。しかし、講演の最初に「いじめと同じなんだよ。友達がいじめられて、自殺して、その後のアンケートで、実はいじめられてましたと言っても遅いんだよ。いくら先生が一生懸命話しても、みんなの説得力の方が、何十倍もあるのは分かってる。だから今日聞いた話を覚えて、悩んでいる友達がいたら、相談に乗ってあげてね」と話すと、生徒さんの目の色が変わってくるのが見てとれます。
いつも生と死は隣り合わせであること、自分の考えている「当たり前」「普通」って、実はとても小さな自分の物差しで測っているのではないか、みんな違ってみんないい! と気付いてくれる内容になるよう、死産やダウン症候群のお子さんのエピソード、性的マイノリティーの話も必ずしています。
どんな子どもを授かっても、経済的にも精神的にも、今育てていく覚悟ができていないのであれば、性交そのものは「恋して、人を愛して、心が生き生きして交わる素晴らしいこと」ではあるけれど、それまではNO SEX! だから、NO! という勇気を持とう。触らないで、まだセックスはしたくない、避妊はちゃんとして、と言ったとき、それまで以上に優しくしてくれるパートナーが、本当に素敵なんだよ、と。
虐待やレイプ、母子家庭、父子家庭に関して、警察や関係団体と一緒に活動する機会も多く、社会に声を上げられず、苦しんでいるケースに対して、今すぐに見つかる解決案はなかなか見つかりません。しかし、われわれ現場を知る産婦人科医が、地道に学校に出向き、小さなときから、正しい知識の修得と、自己肯定感や愛着形成の一助となるような話をすること。そして、「独りで悩まなくていいんだよ、私たちがいるからね」と、頼れる大人がいることを伝えることが、性教育の一番大切なことと思っています。
社会全体で子どもたちの成長を見守る一人として、これからも真摯に子どもたちと向かい合っていく所存です。
高校で講演する金子氏
【今月の人】 金子 法子
1989年川崎医科大学卒業。同年、山口大学医学部産婦人科学教室入局。大学および各関連病院勤務後、98年より実家である針間産婦人科副院長に就任、2001年より院長。山口県産婦人科医会女性保健担当理事。宇部市子ども支援ネットワーク協議会会長。山口県立大学非常勤講師。日々の診療・分娩に携わる傍ら、年間30〜40件の性教育・女性の健康教育・人権教育の講演活動を行っている。また、若年妊娠・虐待・レイプなど、行政や民間機関と連携して、サポート活動に力を注いでいる。