機関紙

<3>全国に産婦人科校医制度を広げたい あおもり女性ヘルスケア研究所(青森県弘前市) 蓮尾豊

2015年06月 公開
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蓮尾 豊
産婦人科医による性の健康教育~私のキーワードはこれだ! その3

全国に産婦人科校医制度を広げたい



あおもり女性ヘルスケア研究所(青森県弘前市) 蓮尾 豊



現状理解なくして性教育なし

 1995年、22年間の勤務医生活に別れを告げ、JR弘前駅前の再開発ビルで婦人科クリニックを開業しました。青森県では婦人科クリニック開業は初めてだったこと、「レディスクリニック」というネーミングだったことなどから、当初は婦人科という認識を得ることができず、「エステですよね、予約をお願いします」などの間違い電話もありました。こんな状況のスタートでしたが、この年に青森県教育委員会から「産婦人科校医」の委嘱を受けたことが、現在の活動と全国の多くの仲間たちにつながっています。しかし、開業の数か月前だったこともあり、思春期の現状を何も理解せぬままの性教育講演は、若い男女を前に性を語る恥ずかしさのみで、今思い出しても冷や汗が出てきます。
 しかし、次第に婦人科のみのクリニックなのだという認識が地域に広がり、多くの女性が受診するようになりました。気がついてみると、10代女性だけで毎日15~40人近く受診するようになり、それとともに思春期のさまざまな性の現状にも直面するようになりました。当初、恥ずかしさだけの性教育でしたが、10代女性の受診理由の根底にあるものが「性に関する正しい知識の欠如」であることを知り、中・高校生に性を語る恥ずかしさよりは、「分かってほしい」という思いが強まり、現在に至っています。


行政を巻き込む制度を

 多くの方に「産婦人科校医」という言葉はなじみが薄いことでしょう。青森県には県の教育委員会から正式に「産婦人科医として校医」を委嘱される制度があり、私もその一人として20年間活動しています。全国にこの制度が普及することが「産婦人科医による性の健康教育」に必要なことと考え、この制度をキーワードに選びました。
 1978年、青森県内で高校生の売春問題が頻発しました。この問題の解決には産婦人科医による「性の健康教育」以外にはないと当時の県医師会常任理事であった産婦人科の大先輩が教育委員会に提案し、81年に現在の「青森県産婦人科校医配置制度」(図)がスタートしました。
 この制度の特徴として三つの点が挙げられます。第1に、校医報酬として予算化され、単年度でなく30年以上継続事業になっている点です。第2に、実際に性教育を担当する産婦人科医により構成される「性教育を進める産婦人科校医の会」を設置したことです。青森県は6教育ブロックに分けられていますので、各ブロックに1名ずつ産婦人科校医Aが委嘱されています。この産婦人科校医Aをサポートする産婦人科校医Bも数名います。この両者によって青森県内のほとんどの中・高校生に対して性教育が実施されています。第3に、生徒に対しての講演だけでなく、「教育関係者を対象とした性教育セミナー」が毎年実施され、教師自身が行う性に関する授業に役立っています。

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校医からホームドクターへ

 青森県ではこのように教育委員会と産婦人科校医との連携により、思春期の現状や低用量ピルのさまざまな役割などを何の抵抗もなく伝えることができるのです。また、思春期女性の婦人科受診のハードルを下げ、婦人科は相談に行くところとの認識が広がり、私の夢でもある「婦人科ホームドクター」を地域に広げることにもつながっています。
 最後に、昨年閉校になってしまいましたが、10年以上毎年講演に出かけていた僻地校での講演風景を示します。この年の中学3年生は1名だけでしたが、生徒さんの後ろには彼女を守りたいという思いの地域の方々がたくさん話を聞いてくれていたのです(写真)。生徒数の多少にかかわらず、全国全ての中・高校で産婦人科医が校医として活動できる日が来ることを願っています。

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【今月の人】 蓮尾 豊

1974年、弘前大学医学部卒。大学や地域の基幹病院での勤務の後、1995年「弘前レディスクリニックはすお」を開業。2014年11月「あおもり女性ヘルスケア研究所」を設立。中・高校生への性教育、低用量ピル普及の活動などを行っている。

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