西岡氏 |
貧困と性 悪循環根絶を目指して
内科を経て産婦人科に
私は初期研修2年間に加え3年間内科医として勤務し、その後産婦人科医になりました。内科も決して嫌いではないのですが、思春期世代に関われるチャンスが大きいこと、産科や思春期の問題など、病気ではない人と接点を持ちやすいことが魅力と感じています。
スタッフとのカンファレンス風景 |
貧困と妊婦
当院は札幌市内唯一の入院助産制度利用可能な病院です(他に個人クリニックが1か所と助産院が1か所)。入院助産制度は聞き慣れない言葉かもしれませんが、経済的困難にある妊婦に対し、分娩費を公費で助成する制度です。よって、札幌市内の経済的困難を抱える妊婦のかなりの数が、当院で分娩しています。
「妊娠・出産」というと、一般的にはめでたいイメージです。しかし、当院で働いていると、決してめでたくない妊娠・出産があること、しかも決して珍しくないことに気付かされます。若年妊娠、パートナー不在に加え、援助者不在、というパターンはよくあります。それに加え、精神疾患合併妊娠の多さも特徴です(抑うつ、解離性障害、境界型人格障害、パニック障害など)。
もう一点気付くことは、これらの妊婦さんの親も同様な問題を抱えていることです。精神疾患合併、ひとり親、虐待などの背景が必ずと言っていいほどあります。
ひとり親家庭の2013年貧困率は54・6%です。出産後もこの妊婦さんが経済的困難な状況に置かれる可能性は高く、そして生まれてくる子が将来的に母親と同じ道をたどる可能性もまた高いのです。当院では、地域の保健師らと協力して産後の子育て支援にも取り組んでいますが、それにも限界があります。
貧困と中絶
人工妊娠中絶の問題も貧困と大きく関係します。当院の2013年の中絶症例全69例中、中絶後に確実な避妊をすぐ実行できたのは10例(14・5%)でした。外来で避妊を選択しない一番の理由が「お金がない」であり、中期中絶となった7例中2例が、費用が準備できないために中期中絶となった症例でした。なお、最近経験した症例で、夫のDVで妊娠、中絶費用がないために出産を選択した、というものがありました。
性教育の重要性
今まで述べてきたような背景を持つ妊婦さんの多くが、学歴は中学校卒です。従って、この悪循環を断つ手段としては、中学校までの性教育が重要と考えています。内容としては性感染症や中絶、避妊の話はもちろんなのですが、一人一人に認められている権利の話まで広げたいと考えています。自分の権利を知り、それを行使できるようになることで、少しでもこの悪循環を断ち切れないか、この悪循環に陥る人を減らせないか、と思います。
私はまだまだ駆け出しであり、年1~2回の中学校での性教育講演を数年前から始めたばかりです。講演会のときには必ず、講演後アンケートを記載してもらっています。このアンケートが大変勉強になります。「勉強になった」と書いてくれる生徒が多いのですが、中には「過激な言葉であり聞きたくなかった」という記載もあり、大勢に対し話をする難しさを感じます。具体的に改善点を指摘してくるコメントもあり、より良い講演を作るために役立っています。質問コーナーでは、俗説から聞いたことがない言葉(ネットで検索したら出てきました)まで、ありとあらゆる質問が出てきて、性に対する興味の強さを感じます。
これからも、この活動を充実させていきたいと考えています。
【略歴】
1981年生まれ。東京都出身。2006年北海道大学医学部卒業。勤医協中央病院で初期研修後、道東勤医協釧路協立病院2年間、道東勤医協桜が岡医院1年間の内科勤務を経て2011年4月から勤医協札幌病院産婦人科勤務。