ターナー
横浜市立大学附属市民総合医療センター 診療教授・婦人科部長
榊原 秀也
病因と病態
ターナー症候群(TS/女性のみ)はX染色体の完全欠失、部分的欠失、モザイクなどにより発症する先天異常であり、その頻度は 出生女児の2千人に1人程度である。
染色体の欠失やモザイクの程度により、さまざまな合併症を呈する。多くの症例は小児期に低身長で診断され、小児科で成長ホルモン治療を受けた後に、思春期に無月経に対してエストロゲン補充療法を開始し、産婦人科や内分泌内科などの成人診療科へ移行して、成人期の診療が行われる。
他の合併症としては、小児期には心血管疾患、 腎疾患、中耳炎などの、成人期では不妊症、骨粗しょう症、甲状腺機能異常、 耐糖能異常、 高血圧、 脂質異常症などのリスクが高い。
健康管理の要点
当科では女性特有の内分泌環境に起因する「健康問題」を扱う専門外来として「女性健康外来」を設け、その中で成人TS女性の診療を行っている。2015年8月の時点で当科管理中のTS女性104人について診療内容を検討した。
平均身長145・7㌢、体重46・6㌕、BMI 22・0。染色体核型は45,Xが19・2%。モザイクが42・3%。構造異常26・9%であった。月経異常は原発性無月経85人(81・7%)、続発性無月経8人(7・7%)であり、有月経症例は11人(10・5%)であった。
健康管理の要点は、①卵巣機能不全に対するホルモン補充療法②小児期に発症した合併症の管理③成人期に発症するリスクのある合併症の検診―である。
そのためにスクリーニングを行っている。具体的には受診時に毎回、血圧・体重を測定し、血液(末血、肝機能、腎機能、耐糖能、脂質、甲状腺機能など)・尿検査を年1回施行している。また、骨密度測定、超音波による子宮長測定、胸部MRIなども適宜施行している。
合併症は、初診時には小児期に発症した先天性心疾患や中耳炎、甲状腺機能異常や骨粗鬆症などの内分泌・代謝異常などが認められた。また、当科管理中にも甲状腺機能異常、耐糖能異常、高血圧脂質代謝異常などが発症し、必要に応じてそれぞれの専門科と協働した診療を行っていた。
ホルモン補充療法
思春期における第2次性徴を目的としたエストロゲン漸増療法、性成熟期のカウフマン療法、更年期以降のホルモン補充療法が行われる。思春期においては、①第2次性徴の誘導②子宮の成熟 ③骨量の獲得を目的としたエストロゲン療法―が行われる。
まず12~15歳の間で、身長が140㌢に達した時点で、エストラジオール貼付剤8分の1または結合型エストロゲン8分の1で開始し、6~12か月ごとに4分の1、2分の1、1枚(1錠)へと増量する。
この量で6か月維持した後に性成熟期のカウフマン療法へ移行する。経過中に破綻出血が認められた場合には、その時点でカウフマン療法に移行する。閉経年齢に達した後は、通常の閉経後のホルモン補充療法の適応に準じて、十分なインフォームド・コンセントの下に施行する。
妊孕性と不妊治療、周産期管理の実際
TS女性では33%に思春期徴候がみられるが、月経が発来するのは10%、自然妊娠に至るのは2%と報告されている。従って、挙児希望のある多くの症例では不妊治療を要する。
妊娠の転帰は、自然妊娠の報告で生児獲得率は58%と高くない。生殖補助医療の場合も、諸家の報告で妊娠率は24~41%と比較的高いものの、流産率も21~50%と高い。妊娠合併症としては、妊娠高血圧、妊娠糖尿病、低出生体重児が多いとされている。また、頻度は少ないが胸部大動脈瘤破裂による死亡例が報告されており、慎重な管理が必要である。
挙児希望者には、まず妊娠前に不妊治療・妊娠のリスクと転帰についてのカウンセリングと合併症のスクリーニングを行う。合併症のある場合はまずその治療を行う。
スクリーニングで問題がなかった場合は、卵巣機能があればまず自然妊娠を目指し、妊娠しなければ不妊治療を行う。卵巣機能がない場合は卵子提供による生殖補助医療による妊娠が可能である。
妊娠後は、妊娠高血圧や妊娠糖尿病などに留意してハイリスク妊娠として管理する。
おわりに
TS女性の健康管理には、他の診療科と連携した包括的な健康管理を適切に行うことが必要である。
不妊治療・周産期管理については、妊娠前のカウンセリングとスクリーニングを十分に行った上で、合併症に留意した不妊治療・周産期管理を行うことが望まれる。