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一般社団法人 日本家族計画協会

機関紙

<9>重症心身障害児のケア、レスパイト 東大寺福祉療育病院院長 富和清隆

2015年12月 公開
シリーズ遺伝相談 総論編9

重症心身障害児のケア、レスパイト



東大寺福祉療育病院 院長

奈良親子レスパイトハウス 代表

富和 清隆

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 重症心身障害(重心)とは重度の運動障害と知的障害が重複した状態のことで、1500~3000人に1人の方が重心とされます。医学的診断名ではなく福祉用語であり、さまざまな病名が含まれます。
 かつては原因として周産期障害が最も多いと考えられてきましたが、最近では染色体異常や先天的な異常による脳障害によるものが30%以上で、最も多いとされます。従って重心児をめぐる遺伝相談にあっては、相談例ごとに原因、病態、予後について理解を深めること、そして慎重かつ丁寧な相談、支援が求められます。


重心児増加の背景

 子どもの数が減少する中、重心児が増えつつある背景には、新生児医療、救急医療、小児医療などの進歩があります。小児疾患のほとんどが救命可能になった一方で、先天的な障害を持つ子や、救命し得たものの何らかの障害を残したまま成長する子どもも増加しています。しかも、胃ろうによる経管栄養、中心静脈栄養、気管切開、人工換気などの医療的ケアを必要としている重症児が少なくありません。それらの子どもも、医療機器、訪問看護、訪問医療などの在宅医療を支える制度や技術の進歩で、家庭で生活、成長できるようになりました。また、特別支援教育の現場でも医療的ケアが受けられるようになり、医療的ケアを要する子どもも文字通り地域で育つことができます。
 そうした子どもは家族や介護者の介護を必要としながらも、家族と深い絆で結ばれ、親を深く信頼し、また親は子どもの親であることに深い喜びを感じています。しかし、障害の子どもを持つゆえに、親子の喜びを感じる余裕もないまま疲れて果ててしまう家族もいます。


介護者の休息

 在宅医療が進歩したとはいえ、常に命の危険にさらされている状態(Life Threatening Condition)にある子どもを、24時間医療的ケアをしながら見守る家族の負担は極めて重いものです。5年前に私たちが奈良県内の重心児のご家族にアンケートした結果によれば、在宅児の親のほとんどは今後も子どもを身近で介護したいと思う一方、短時間、短期間であっても介護を託せる機関を必要としています。
 被介護者を預かり、日常の介護者に一時的な休息を与えることをレスパイトあるいはレスパイトサービスといいます。レスパイトは、「一息つく」という意味のラテン語に由来します。
 レスパイトは日常介護を担う親が、最も必要としているサービスの一つです。しかし子どものレスパイトには、課題も多くあります。レスパイトは福祉施設での短期入所(ショートステイ)として始まりましたが、そもそも施設には、一時的にせよ受け入れるベッドが不足しています。また、医療機関も「親の理由」で子どもを入院させることは認められていません。次に、医療的ケアは一人一人微妙に違うため、受け入れる施設のスタッフも、介護を託す親も、不安と心配があります。知らない所で知らない人に世話される本人が最も不安と思います。
 必要とされながら子どものレスパイトが進まないのには、こうした背景があります。


親子レスパイト

そこで、5年前に私たちは、通常のレスパイトサービスとは別に、難病や障害を持つ子どもと家族が介護する者とされる者との関係から解放され、一緒にゆったりとした時を過ごし親子が共に生きることの意味と喜びを再発見する機会を「親子レスパイト」として提唱しました。福祉制度にいうレスパイトや医療入院とは全く違った活動です。
 奈良親子レスパイトハウスでは、本人とご家族を、日常から支えになっている医師らと一緒に奈良にお呼びし、①奈良を味わう②寧楽(なら)に遊ぶ③善き友に会う―経験をしてもらっています。食事からお世話まで、全て地元ボランティアが行います。日帰り、宿泊を含め、これまでにの近畿各地から60余りのご家族に参加してもらいました。
 家族が一方的な受益者である通常のレスパイトとは異なり、本人家族にもミッションがあります。それは、どのような障害・難病にあっても、人は深く豊かに生きることができる、親子として輝くことができることをあるがままの姿で示すことです。親子レスパイトは、家族の絆を深めるだけでなく、支援してくださる人々にとっても、今を深く生きることの大切さに気付く機会になるものと思います。
 こうした活動に参加、協力することは重心児や家族を支援する専門職にとっても貴重な体験になると思います。(http://nara-oyako.org/)
 

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