太田 寛 |
正しい「性」の知識があると人生お得です
瀬戸病院産婦人科(埼玉県所沢市)
太田 寛
私が医師になったわけ
私は、ストレートで医師になった人より10年遅れて医師になりました。最初に就職したのは航空会社でした。冬の夜、吹きさらしの滑走路でジャンボジェット機のタイヤ交換をしたりして、それなりに楽しく航空機整備を行っていました。
ある時期から病院に通うことになったのですが、論理的に考えても絶対におかしなことを、堂々と言う医師が何人もいました。医師の言うことがおかしいと思っても、検証する情報を得ることはとても難しく、おかしいと思いながらも医師の「助言」に従い、しばらくして納得できずに他の医師を頼るということが続きました。そのうち、自分自身が医師になれば、医師の説明がもっと分かるようになるし、対応もまともになるのではないか、と考えるようになり、医学部に入学しました。
このように、私の医師への道は、医療不信がきっかけでした。いまだにデマを流す医者がいて、そのために医療不信・医者不信になった人もいるようです。インターネットによって情報が多くなっても昔と変わらない状況が残っていることを苦々しく思っています。
毎日の診療を性教育の場に
現在、私は一般産婦人科の現場で働いており、産科や婦人科の外来診療、お産や帝王切開、婦人科の手術に加えて、当直やオンコールもあり、性教育の講師ができるチャンスは年に数回です。
よって、毎日の診療が私の性教育の場です。子宮頸がん検診などで受診している人に対して、確実な避妊法(低用量ピルや子宮内避妊システム(IUS))、性感染症などについて、少しでもいいからお話しするようにしています。また、1人に5分の時間を使うより、5人に1分ずつ話をすることが、結果的に多くの人の未来を変えます。今はキーワードさえ知っていれば、インターネットで有益な情報にたどり着くことができますから、医者のちょっとしたひと言が大事なのです。また、時間があれば、インターネット上の多くのデマについても話しています。
人生に寄り添った性の健康教育を
望まない妊娠の予防だけでなく、さまざまな予防医療についての情報提供も心掛けています。10年、20年と女性の人生が進んでいく中で、月経、避妊、妊娠、出産、更年期など、体との付き合いは変わっていきます。あらかじめ知っておいた方が得することを伝え、未来につながるアドバイスをするよう心掛けています。
そもそも避妊とは、自分が妊娠したいときに妊娠する手段です。よって、避妊について話すときには必ず、その先の妊娠のために知っておいた方がよいことについても話しています。特に力を入れて話していることは、妊娠前に女性も男性も風疹のワクチンを受けて先天性風疹症候群という障がいの予防をすること、妊娠前から葉酸をサプリメントで1日400㍃㌘取ると神経管閉鎖不全症の予防になること、生肉・レアステーキなど加熱の不十分な肉を妊娠中に食べると先天性の障がいの原因になり得ること、などです。この他に、更年期や骨粗しょう症の話もしますが、ちょっと苦手なので勉強中です(笑)。
「知っておけばよかった、やっておけばよかった、と後悔しない人生を送るため」の一つの知識として性の健康教育があります。講演をする時間がない人でも、毎日の外来で性の知識を伝えることはできます。根気よく、外来でコツコツと伝えていくこと、これが私の性教育です。
中学校での性教育の講演風景
【今月の人】 太田 寛
大分県出身。京都大学工学部卒、日本航空羽田整備工場勤務の後、東京医科歯科大学に入学。茅ヶ崎徳洲会総合病院、日本赤十字社医療センター産婦人科、北里大学公衆衛生学教室を経て、埼玉県所沢市の瀬戸病院に勤務。