メニュー ホーム 検索 PCサイトへ
一般社団法人 日本家族計画協会

機関紙

<17>サイエンスに基づいた気付き 国立病院機構高知病院(高知県高知市) 滝川稚也

2016年08月 公開
160808-01.jpg  
滝川 稚也
産婦人科医による性の健康教育~私のキーワードはこれだ! その17

サイエンスに基づいた気付き



国立病院機構高知病院(高知県高知市) 滝川 稚也



教育への思い


 私の父親は中学校教師をしておりました。昭和の時代はおおらかで、夏休み中の課外活動など、父親や他の教師たちが生徒たちと接している姿を間近に見る機会を多く持ちました。教育関係者たちの生徒への情熱と真摯な取り組みを、深く記憶にとどめておりました。
 医師として、臨床に携わる傍ら、無知による無防備な性交渉の結果の望まない妊娠、分娩を担当するに連れ、教育の重要性への思いを募らせていました。
 そのような私にとって2004年、パラダイムシフトを起こす國分康孝、久子先生との出会いがありました。教育界で絶大な指導力を持つ先生方との出会いは、教育の重要性とともに私たち医療関係者が思う「情報提供と現場で生徒たちに正しく分かりやすく情報を伝えるというのは大きな隔たりがある」という現実がありました。
 そして時期を同じくして、北海道への転勤の命が下りました。幸運なことに北海道は國分先生の愛弟子たちが多く、活動が活発な地区でした。そして教育関係者の先生方は、性教育に関する情報を渇望していたのです。教育の世界ではサイコエジュケーションと呼ばれる分野です。そこでたどり着いたキーワードは、「サイエンスに基づいた気付き」です。
 
いよいよ活動開始
 準備は整いました。良好な教育関係者との関係性のもと、現場での性教育が開始されました。われわれは伝えたい情報をたくさん持っています。しかし、情報提供を頑張れば頑張るだけ生徒たちには伝わりにくくなる、このジレンマに悩まされる時期がありました。現場の教育関係者の方々と十分な情報交換を行い、スタイルを確立していきました。


性教育活動の結実
 学校での講演会を重ねることにより、直接現場の教育関係者の方との関わり合いの中で、情報提供だけではなく、その後の生徒さんの個別の質問を受け入れる場所も必要であることが明らかになってきました。
 私たちはこのような場合はボランティアでと考えがちですが、学校側から「サービスを受けるときは、その料金が発生する。教育の一環ですからきちんと、料金を徴収して継続して安定したサービス体制を構築してください」という申し出がありました。そこで、性教育講義、医学サポートを受け皿として、思春期外来を設けるという体制が整いました。
 インターネットでは出所不明の、私たちが一読すればあきれてしまうようなデマがあふれています。生徒たちの間では「いろんな人とエッチした方が妊娠もしにくいし病気にもかかりにくいんだよ」「コンドームをつけたら気持ちよくないからつけない方がいい」などというびっくりするような情報が、まことしやかに流れていることがあります。これらのことをこちらから一方的に情報提供をするだけでなく、サイエンスを下地とした正しい知識に基づいて一緒に考えていくようにしています。
 一緒に考えていきながら間違った方向へ行かないように、枠を設けて話を続けていく構成的グループエンカウンターという手法を用いています。
 この結果をまとめて11年メディカルレビュー社より「実践 生徒を眠らせない性教育授業」を上梓いたしました。國分先生のご推薦をいただき、教育カウンセラーの世界、サイコエジュケーションの性教育の分野では入門書として重宝されております。現在ではこのような一緒に考える講義形態も一般化してきました。
 私は、正しい情報が必要な人たちとできるだけ同じ目線で情報を提供して、しっかりとした気付きを与えて、きちんと定着できるような気付きを与えることに重点を置いて、医師ができる教育に従事しております。

160808-02.jpg

滝川氏が産婦人科医として関わり、高知県で作成した高校生向けパンフレット表紙。現在、高知県の高校生向け性教育の標準パンフレットとなっている



【今月の人】 滝川 稚也

1993年、徳島大学医学部医学科卒。NHO高知病院産婦人科医長。学校教育の現場では、上級教育カウンセラーとして活躍している。近年国体の帯同医を勤めるなど女性アスリートのサポートなども行っている。

メニュー ホーム 検索 PCサイトへ