上村 茂仁 |
Living well is the best revenge
※よく生きることは最良の復讐
ウィメンズクリニック・かみむら 上村 茂仁
反面教師から得た教訓デートDV予防を教える
子どもたちとメール相談を始めて15年くらいになります。昔はどんなことでもたくさん質問してくれていた子どもたちも、今はあまり相談メールがありません。ただしそんな中で性虐待に関するメールは増えてきました。
「中学時代から義理の父親に性虐待に遭ってきたが、弟や妹は父親が大好きなので、今まで我慢してきたが、もう限界を感じている」「中学校の塾の先生から性的虐待を受けている」など、今まで誰にも相談することができなかった内容を、しっかり相談してくれるようになってきているようです。
現実に親に愛されていない、生活の最低限の基本である、衣食住すら保たれていない子どもたちがクラスの中に何人かいます。その子たちに向かって愛の大切さや自己肯定感をひたすら訴えるような教育をすればするほど、その子たちは、自分の居場所を失います。愛を感じられない、自己肯定感を持てない自分は、生きていても仕方ないのではないかと、そこまで追い詰めることになるです。
「生まれた時点で人生勝ち組なんだから、そのまま寿命まで生きていってくれればそれでいい」。私は講演会でこのようなメッセージを送ります。特に問題のない子どもたちはこの言葉で納得し感動するのですが、前述した子どもたちにとっては到底納得できる内容ではありません。講演をきっかけに子どもたちが自分は自分の状況を私にメールで訴えてきてくれるのです。
学校の先生方は、「昔に比べてうちの生徒たちは大人しく、とても良くなっている」と言いますが、実際は水面下に隠れているだけなのでしょう。メールでの内容からそう推測せざるを得ません。
当院に来院する10代の腹痛や頭痛、月経不順など不定愁訴を訴えてきた患者さんと、風邪症状を訴えてきた患者さんを比較したとき、不定愁訴を訴える患者さんに有意に性虐待の被害者が多いというデータがあります(図1)。患者さんは自ら性被害者とは語りませんが、そのバックグランドには多くの被害者が潜んでいます。それらを見つけ出せてこそ婦人科医だと言えます。
パートナーとの付き合い方を考えたときに、どうして相手の要求を断れなくなるのか、どうして相手にそのような要求をしてしまうのでしょう。性教育ではデートDVをテーマにして、そのことについて教えています。
デートDVとは、自分の付き合っている人に対して約束をいっぱいさせて、自分以外の人とは関わらせないようにすること。または自分の言うことを聞かせて、付き合っている人を自分だけのものにしようとすること(図2)。一般にDVする人は、最初は、ものすごく優しくまめです。そして普通よりもたくさんの約束を相手にさせて、しつこくその約束を守らせようとします。約束を破られると相手を脅したり、暴力を振るったり、自分を傷つけてみせたり、泣いたり、とても優しくなったりして、何としてでも約束を守らせようとします。そんなとき、一般にDV被害者は付き合っている相手を怖いと思うときがあります。こんな状態をデートDVといいます。このことを中学生までの間に生徒全員にきちんと理解してもらう、これが大切です。
きちんと相手に復讐を
子どもたちの環境はいろいろです。私たち大人が子どもたちに良かれと思うことが、一部の子どもたちを傷つけます。(表題の言葉は)そんな子どもたち全てに私が最後のメッセージとして伝えている言葉です。
大人に裏切られ、傷つけられた人もいたでしょう、親や友達やパートナーに傷ついた人もいるでしょう。そんな相手にぜひ復讐しよう。最大の復讐は自分が素敵に健康に最高に生きてみせることです。自分を苦しめた親に対しては絶対にそんな親にならない、自分を裏切った人に対しては、その人よりもずっと素敵な人になってみせる、それが最高の復讐です。死にたいと思うかもしれないけど、それよりもきちんと復讐してやろうじゃないか。
【今月の人】 上村 茂仁
ウィメンズクリニック・かみむら院長。診療を行うから傍ら、休日を利用して年間約100回の全国での性教育講演・デートDV防止教育活動を行っている。また子どもたちからの携帯電話での匿名メール相談を受け付けており、その数は1日平均100通になる。