北村 邦夫 |
避妊法の開発は女性解放の歴史
本会理事長・避妊教育ネットワーク世話人代表 北村 邦夫
神様なんていない!
女性が主体的に取り組め、安全性が高く、避妊効果が確実な低用量経口避妊薬(ピル)は決して天から降ってきたわけではありません。それは、"家族計画の母"と呼ばれる米国のマーガレット・ヒンギス・サンガー(1879―1966)から始まったのです。
20世紀の初頭、サンガーはニューヨーク市の貧民街において訪問看護師として働き始めました。その時、彼女が目の当たりにしたものといえば、出産を繰り返す女性たちの姿でした。旧約聖書には「生めよ、ふえよ、地に満ちよ、地を従わせよ」(日本聖書協会、1970年)とあるほどに、敬虔なキリスト教徒にとっては、そうすることが信仰の証。当たり前なことだったのです。しかし、自分の生活を顧みずに出産を続ければ、女性の健康が損なわれるのは自明の理です。やがて貧困が彼らを襲います。
「意図しない妊娠と出産がどれほどに女性を絶望の淵に追いやってきたか! 男性支配を許してきたか」
この負の連鎖を断ち切るには「女の謀反」が必要でした。その謀反とは、「神様なんていない!」。神様を信じるがあまりに、産むことにこだわり続ける女性たちの行動を変えさせるためには、これほどに大胆なメッセージを発せずにはおれなかったのでしょう。
これを機に、サンガーは女性を真に解放させるためには、女性自身が主体的に取り組める確実な避妊法の開発が必要だと考えました。避妊を男性に依存するのではなく、「産みたい時に産めるように、産めないのであれば確実な避妊ができるように」と。
"ピルの父"グレゴリー・ピンカス(1903―1967)や経済的支援者キャサリン・デクスター・マコーミック(1875―1967)との出会いによって、ピルが世に出る道筋がつくられたと言っても過言ではありません。
ピルは血と汗と涙の結晶
一方、わが国に目を転じると、本会が昨年9月に実施した「第7回男女の生活と意識に関する調査」からは、この1年間避妊をしていると回答した女性では(二つまで選択を可として)、コンドーム85・5%、腟外射精16・0%、オギノ式避妊法16・0%、ピル4・6%という結果であり、避妊法選択が依然として男性主導であることが分かります。だからというのは言い過ぎですが、中絶経験を有する女性は・2%、そのうち複数回の中絶経験者は25・9%に上っています。まさか「妊娠したら中絶すればいい」とは考えないでしょうが、かつて欧米の女性記者から筆者に向けられた言葉が胸に突き刺さります。
「避妊効果を落とすことなく、副作用を軽減させることを追求した低用量ピルの開発は、宗教的に中絶が許されなかった私たちにとっては悲願でした。別の言い方をすれば、低用量ピルとは私たちの血と汗と涙の結晶なのです」。
米国でのピルの承認は1960年、20世紀の後半に入ってからです。ピルの登場によって、妊娠するかしないかを女性自らの意志で初めて決めることができるようになったといいます。
まさに、避妊法開発の歴史は女性解放の歴史を刻むと言い換えることができます。