2006年度も、本会クリニックで滞りなく事業を終えることができたのは、ひとえに本会ならびにクリニックを支えてくれているスタッフ、厚生労働省、メディア、協賛企業など関係各位の協力の賜物であり紙面を借りて心から感謝したい。すべてを漏れなく報告することは困難であるので、ここでは主なる活動概要の紹介にとどめることとしたい。なお、今年度からは家族計画研究センター(1面参照)としての役割をも担うこととしている。 (本会常務理事・クリニック所長 北村邦夫)
新たにHPVワクチン治験など取り組む
2006年度の本会クリニックを中心とした取り組みで特記すべきことは、
などを挙げることができる。
「思春期・FPホットライン」、女性が男性を上回る
筆者が本会に赴任したのが1988年度からであり、以来相談活動、診療録のすべてがデータベース化され保存されているが、「思春期・FPホットライン」(・〇三―三二三五―二六三八)については10万7千4件(男性6万6千670件、女性4万334件)となっている。06年度の特徴は相談件数が5千814件(男性2千793件、女性3千21件)で開設24年目にして初めて女性からの相談が男性を上回ったことである。
5歳階級別にみて相談件数の最も多い年齢は男性では15―19歳で67・8%、女性では20―24歳の26・7%となっている。ちなみに20歳未満では男性78・8%、女性27・0%と男女差が顕著である。この年齢層を反映してか、男性の悩みは従来と同様、包茎、自慰、性器、射精と続き、女性では緊急避妊関連の相談が42・8%と圧倒しており、以下病気、妊娠不安、月経、妊娠と並ぶ。(表1)
「東京都・女性のための健康ホットライン」(・〇三―三二六九―七七〇〇)には533件の相談が寄せられ、相談内訳は病気28・5%、精神・こころ7・3%、更年期7・1%、妊娠6・9%、月経6・2%などとなっている。
表1 「思春期・FPホットライン」性別相談内容
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OC関連相談は6千件に
本会では、OC(低用量経口避妊薬)発売企業の協力のもと「OCサポートコール」と「ピルサポートデスク」という2つのOC関連電話相談を実施している。一年間の受付相談件数は前者が4千11件、後者が1千913件で合計5千924件(前年度4千129件)と前年比1千795件増となっている。「OCサポートコール」の急増は「産婦人科医とコメディカルのためのOC啓発セミナー」を契機に全国の婦人科クリニックにおいて電話相談カードが大々的に配布されていることが原因していると思われる。
ちなみに、カードを手にして電話をかけてきた人は91・6%にも上っている。また、医師・コメディカルからも13件の相談が寄せられている。多少主旨が異なるので、二つの電話相談を単純には合計することはできないが、それぞれについて代表的な相談内容を示した。(表2)
表2 OC関連相談の相談内容
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東京都・不妊ホットライン11年度間で9千364件
1997年1月にスタートした「東京都・不妊ホットライン」は、07年3月までに実質10年3か月が経過した。この間受けた相談件数は9千364件。その94・6%が女性からの相談であることをみても、不妊女性の苦悩が見て取れる。2000年度に1千176件と過去最多を記録したが、以降やや相談件数が伸び悩み06年度は533件に留まっている。開設当初は全国に先駆けた当事者相談として注目を集めたが、その後不妊カウンセリングへの関心が高まる中、不妊治療施設、行政、NPOなど全国各地で相談への取り組みが始まったことなどによって相談者が分散しているものと思われる。
表3には、この11年度間の相談者の年齢分布の変化を示した。不妊とは「妊娠を希望する性生活を開始してから2年を経過しても妊娠の成立をみない」と定義されるが、このホットラインに電話をかけてくる人の年齢は96年度が平均31・9歳であったものの06年度には35・5歳と4年近く高くなっている。これは晩婚化、晩産化による影響なのか、結果として不妊である自分に気づくのが遅れてしまっているのかが気になるところである。ただし、世の中の結婚観がどうであれ、高齢になるほど妊娠率が下がるのは自明の理である。
表3 「東京都・不妊ホットライン」(1996年度~2006年度)の11年度間相談者の平均年齢(歳)と年齢分布(%)
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HPVワクチン臨床試験協力施設として
現在、世界中で新たに子宮頸癌と診断される女性は毎年50万人。27万4千人が死亡し、その8割は検診などが十分に行えない開発途上国で起こっている。わが国の統計では、生活環境の改善や早期発見・治療が奏効してか、子宮癌
(体癌と頸癌を含む)が明らかに減少してはいるものの5千302人の死亡例が報告されている(2003年)。
子宮頸癌の原因がHPV
(ヒト乳頭腫ウイルス)にあることはよく知られている。そんな女性に朗報が届いた。HPVワクチンが開発されたのだ。このワクチンは、子宮頸癌の70%を占めるとされるHPVの16型と18型、尖圭コンジローマのおよそ90%を占めるHPV6型、11型を予防することができる。2003年1月に実施されたスタンフォード大学の調査では、HPVワクチン接種に必要な経費は、HPVに感染したことによって支払われる医療費に比べてはるかに少ないことを明らかにしている。
セックスが行われる前の若者達に、ワクチンを接種するわけであるから、両親にとっては想像を超えた思いがあるかも知れないが、子ども達が将来子宮頸癌になる危険性から解放されるわけだから、それに越したことはない。本会クリニックでも50人のボランティアを募り、昨年の6月から臨床試験協力施設としての活動を展開している。
セミナーを全国各地で
本会クリニックが中心となって開催しているセミナーには、通年開催では「産婦人科医とコメディカルのためのOC啓発セミナー」(後援・⑳日本産科婦人科学会、⑳日本産婦人科医会、共催・日本シエーリング⑭)と「指導者のための避妊と性感染症予防セミナー~学校性教育とのコラボレーションを考える~」
(共催・⑳日本助産師会、全国助産師教育協議会、協賛・ あすか⑭、ジェクス⑭、⑭そーせい、⑭ツムラ、日本オルガノン⑭、日本シエーリング⑭、持田製薬⑭、ワイス⑭)が、また6月に開催した「性犯罪被害者への医療支援をどうする?緊急避妊実践セミナー」(協力・そーせい⑭、日本シエーリング⑭)がある。いずれも、学際的団体の後援ならびに企業協賛を得て成功裡に開催できたことに対し、紙面を借りて心からお礼を申し上げたい。
中でも、OC啓発セミナーについては「低用量経口避妊薬(OC)の使用に関するガイドライン」が改訂されたことを契機に06年企画として3月12日東京開催を皮切りに大阪、札幌、仙台、福岡、広島、名古屋、東京の8会場で開催され、1千512名の参加を得ることができた。ちなみに、2年間を通しての参加者数は2千982人となっている。
3回目となる緊急避妊セミナー。06年度の目玉は4月からスタートした性犯罪被害者に対する医療支援の実際を話題に、警察庁の担当者から話を聞くことができたことである。
初めて診療録を作成した患者、4割が緊急避妊
毎週火曜日、金曜日と第二土曜日(午前中泌尿器科、午後婦人科)に開設しているクリニックには、06年度に延べ2千335人が訪れている。当クリニックで初めて診療録を作成した305人の受診理由について見ると、緊急避妊121人、避妊(OCやIUD)56人、月経異常20人、下腹痛20人、無月経19人、性感染症の疑い15人などとなっている。