2010年度日本家族計画協会家族計画研究センター・クリニックの活動報告
本会家族計画研究センター所長 北村 邦夫
●「指導者のための避妊と性感染症予防セミナー」を全国8か所で開催
確実な避妊法である低用量経口避妊薬(OC)や、今話題になっている緊急避妊法、子宮頸がん予防のためのHPVワクチンなどを普及させることは日本人女性のQOL向上には不可欠である。しかし、対象が女性の場合には婦人科との関わりが必須であるのに、「婦人科の敷居が高い」「紹介したくても信頼できる婦人科選びができない」「できれば女性医師のいる婦人科がいい」など、婦人科での受診を躊躇させかねない課題が山積している。本セミナーでは、「婦人科を上手に使うために」をテーマに、83~90回まで全国8か所で開催し920人が参加した。また、当センターが中心となって開催した㈱バイエル薬品共催「避妊指導に関わる医師とコメディカルのためのOCスキルアップセミナー」の関東と大阪エリアの2か所の参加者総数は、医師とコメディカルを合わせて569人だった。
●初めて都道府県別データを収集
本会の電話相談史上、初めて相談者の住所地を都道府県別に聞いた。その結果、表1にあるように、本会の電話相談が首都圏に限らず、全国に広がっていることがわかった。
写真1 東京都から委託されて作成した不妊啓発用冊子の表紙とその内容の一部 | |
「思春期・FPホットライン」の利用件数は3457件(男性1410件、女性2047件)と減少傾向にあるが、相談主訴をみると、従来同様男性の場合「包茎」「自慰」「性器」の三大悩みは変わらないものの、女性では「緊急避妊」「病気」「避妊」「月経」「妊娠」の順であり、「緊急避妊」が37・7%と他を圧倒するものの、2位以下は多少の入れ替えが起こっている(表2)。
「東京都・女性のための健康ホットライン」については590件。35歳以上が50・2%であり、「思春期・FPホットライン」の中で相談者の年齢層が高い傾向にある。この年齢を反映してか、相談内容も「病気」(24・9%)、「月経」(11・5%)、「更年期」(11・9%)などとなっている。
●不妊啓発資材の作成と配布
10年度の新規事業として、当センターでは東京都から委託されて、「いつか子供が欲しいと思っているあなたへ」という不妊啓発用冊子(14頁)を作成した(写真1)。作成に当たったのは「東京都・不妊ホットライン」の相談員。13年間にもわたる相談経験を活かすだけでなく、女子高校生・女子大学生などの配布対象者の側に立って漫画をふんだんに盛り込んでいる。「不妊の定義」「不妊の現状」「ライフプラン」「体外受精でも妊娠しない現状」などをコラム欄でまとめている。さらに「不妊Q&A」「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)をご存じですか」「若いみなさんに伝えたいこと~東京都・不妊ホットライン相談員からのメッセージ~」などは読み応えがある。既に18か所、1万6400部を配布済み。
「東京都・不妊ホットライン」の相談件数は400件。1件あたりの相談時間は27・9分、相談者の平均年齢は36・9歳だった。表3に相談内容をまとめた(複数回答)。
●「OCサポートコール」過去最多の7914件
㈱バイエル薬品の協賛で運営している「OCサポートコール」は2005年2月にスタートして以来6年余が経過したが、相談件数は年々増加し続け10年度は7914件。合計3万1649件となった。
これだけ多数の相談内容が収集されると、発売以降のわが国のOCの特徴が見えてくる。一例を挙げれば、平均相談時間は04年度以降4・2分、4・3分、4・2分、3・9分、3・6分、3・5分、3・5分と年々短縮している。OCの認知度と理解度が高まった結果とは言えないだろうか。
相談者の平均年齢は04年度以降、28・1歳、29・0歳、29・5歳、29・7歳、30・0歳、29・7歳、30・4歳であり、30歳前後の女性がOCを服用している現状を反映している。OC先進国では10代など低年齢層での使用が多いが、この数字からは殊の外高年齢層に偏っているように思われる。これは、OCの費用負担などが影響している可能性を否定できない。また、相談内容も変化しており、増加傾向にあるのは「飲み忘れた場合の対処」「周期調節」「服用順番間違い」、減少傾向にあるのは「副作用」「副作用以外の不安」などの「不安」に関する項目となっている(表4)。発売から11年を経て、OCに対する不安感が徐々に低下し、OCの副効用である「周期調節」などに対する関心が高まっているのは興味深い。
●緊急避妊薬『ノルレボ錠』の適正使用に向けて
悲願であった緊急避妊法(emergency contraception:EC)のひとつである『ノルレボ錠』(成分レボノルゲストレル)が本年2月23日に正式に承認された。わが国では「医師の判断と責任」によって、ECとしてホルモン配合剤あるいは銅付加子宮内避妊具(Cu―IUD)が長年にわたって利用されてきたが、私たち産婦人科医にとっては、新しく登場する緊急避妊薬の特徴について適確な情報を入手する必要がある。添付文書には、「性交後72時間以内にLNGとして1・5㎎を1回経口投与する」「本剤を投与する際には、できる限り速やかに服用するよう指導すること」とあるが、服用禁忌は「過敏症」「重篤な肝障害」「妊婦」とごく限られており、使用しやすい薬剤となっている。レイプ被害に遭われた女性、避妊できなかった・避妊に失敗した女性が望まない妊娠に苦悩することがないよう、「知らないのは愚か、知らせないのは罪」と言われるECの周知をさらに図り、ECを契機としてその後はOCやIUDなど女性が主体的に取り組むことのできる確実な避妊法へと行動変容を促していくことが重要である。 図1は日本産科婦人科学会が作成した指針の中で提示されているアルゴリズムである。
当センターには合計821件の緊急避妊相談が寄せられ、クリニックには緊急避妊法を求めて40人が訪れている。
●子宮頸がん予防を目的としたHPVワクチン、10年度は57人が接種
09年12月22日に発売された2価のHPVワクチン。10年度末には供給が間に合わず、新規接種が困難になったが(前号既報)、当センターでも既に74人の接種が完了している。
11年度にはHPV16型、18型に加えて尖圭コンジローマのおよそ90%を占める6型、11型を予防するさらに進化したワクチン『ガーダシル』が登場することになっており、今から期待されている。(※注=このワクチンは0、2、6月の3回接種)