遺伝の仕組み そのタイプと特徴
東京逓信病院小児科 小野 正恵
どんな疾患も、多かれ少なかれ遺伝的要因と環境要因が関わっている。一卵性の双子では、外見が非常によく似ているだけでなく、同じような病気になり、同じような年齢まで生きることも多い。その一方、例えばⅡ型糖尿病になりやすい体質を持っていても、運動をし、過食を防いでいれば発症を免れる可能性は高い。ゲノムのDNA配列だけで全てが決まるのではない。遺伝子発現の周辺環境、エピジェネティクスも重要である。
常染色体にのっている遺伝子は、原則としていずれの親、すなわち由来の男女を区別することはないが、一部の遺伝子はゲノムインプリンティング(ゲノム刷り込み)といい、いずれの親由来か区別して発現する。
遺伝の仕組みには、表1のように、いくつかのタイプがある。単一遺伝子病は、特定の遺伝子異常によって疾患が生じるものであり、メンデルの法則に従って遺伝する。
常染色体優性遺伝-親の気持ちに差
常染色体優性遺伝の疾患では、罹患者はその子どもに2分の1の確率で伝える。何世代にもわたって続いていく家系もある一方、突然変異の発生も多い。どちらも同じ疾患であり、発症者の子どもへの遺伝には再発率の予測に差はないが、発症者を子どもに持つ親の気持ちには差がある。自分の病気をわが子に伝えてしまい申し訳ないという気持ち、片や突然変異という災難がなぜわが子に降りかかったのか理不尽だという思いが代表的である。同じ家系でも症状には個人差があり、重症者がいる一方で、中には非常に軽症で診断に難渋を来すことさえある。
脊髄小脳変性症(SCA)は3分の1が遺伝性といわれ、その多くは常染色体優性遺伝のタイプである。遺伝子座位の判明しているものは30種類以上に及ぶ。トリプレットリピート病といわれ、例えばSCA1型やマシャド・ジョセフ病ではCAGリピートが伸びて機能障害を来すもので、代を経るごとに重症となり、また発症年齢が早まる世代促進現象を示す。
常染色体の遺伝子は、原則として親の由来を問わずに発現し、作用する。しかし、SCAでは父方か母方か、いずれから遺伝したかによって、重症度が異なる場合がある。
常染色体劣性遺伝-両親が保因者
常染色体劣性遺伝は、両親が保因者同士であることが判明する。子どもの4人に1人が発症し、2人は保因者になる。子どもの病気に関して、夫婦の立場は対等と思う気持ちもあり、仕方がない偶然の組み合わせと納得できることが多い。次子再発率は何人子どもが生まれても4分の1で変わらない。まれな疾患であると、両親が近親者である確率が高い。
その他の遺伝病遺
X連鎖優性遺伝の代表はレット症候群で、全て女性である。男児は子宮内死亡してしまう。
ミトコンドリア病は、ミトコンドリア独自のDNAに異常がある場合、配偶子の細胞質が受精卵に入る。精子のミトコンドリアは、その頸部に泳ぐためのエネルギー産生目的に存在するだけで、受精卵には入らない。受精卵の細胞質に存在するミトコンドリアは、ほぼすべて卵細胞由来である。
日本人に多い口唇裂・口蓋裂は、染色体異常や奇形症候群に合併する場合もあるが、単独での発症も多い。後者では多因子遺伝と考えられている。発症に関係する遺伝子が複数あり、それらの数が多いほど発症する仕組みである。ただし、常染色体優性遺伝病の浸透率があまり高くない場合には、多因子遺伝病と区別がつかなくなってくる。
遺伝に絡む悩みは尽きない。さまざまな場面でその悩みをすくい上げることができるはずだが、遺伝形式により、その悩みにも特徴があるので、それらを知った上で対応できることが望ましい。