八田 真理子 |
体、守るのは自分だよ
ジュノ・ヴェスタクリニック八田(千葉県松戸市)
八田 真理子
アンテナ立ててネタ探し
「ほらー、静かにー! 前向いてしっかり聞くように!」
学年主任の太い声が、何度となく響き渡る蒸し暑い体育館。開業医として近所の公立中学校の学校医に就任し、初めての性教育講演の壇上で、私はマイクを握りしめたまま立ち尽くしていました。
大学や基幹病院での研修と臨床経験を重ね、産婦人科専門医として地域医療に貢献するべく意気揚々と臨んだはずでした。当時の研修プログラムには、性教育や講演のノウハウを学ぶ機会はなく、学生時代に教わった記憶もありません。
私は、この日をきっかけに奮起し、どうすれば子どもたちに伝わるか、役に立つネタはないかと、いつもさまざまなジャンルに向けてアンテナを立てています。
実は、今回のキーワード「体、守るのは自分だよ」も、子宮頸がんを患っているあるモデルさんがブログで発したメッセージでした。
これこそ、私が伝えたいこと! 講演後のアンケートでも、子どもたちから最も反響のあるのがこの言葉でした。
診療現場の臨場感を大切に
私の性教育のモットーは、性の問題を子どもたちが自分事として捉えるようになることです。そのため、私の講演は、臨床経験や実際の診療現場でのエピソードを中心にし、臨場感を大切にしています。
まず、中学3年生の女の子がSNSで知り合った男性の家に遊びにいって妊娠・中絶に至ったケースを紹介。「二人でゲームするだけと約束してたのに」「生理不順だから、また遅れているだけだと思ってた」と彼女が実際に言っていた言葉を伝えながら、月経のこと、妊娠や人工妊娠中絶、避妊、SNSの危険性について、子どもたちと一緒に考えていきます。
次に、帯下感を訴えて来院した女子高校生がクラミジア感染症だったケース。「女性の体は奥へとつながっている」「性感染症を防ぐにはコンドーム」「避妊にはピル(OC)」「検査を受けて治療すれば、性感染症は治る」と伝えていきます。
そして、中学時代から月経痛があって、月経困難症から子宮内膜症となり、卵巣チョコレート嚢腫で手術をし、不妊治療をした40代の患者さんのケース。この方は、体外受精でも妊娠には至りませんでした。この方からの「子宮内膜症は女性の人生を台無しにする病気」。だから「月経痛はほっとかないで!」というメッセージも提示していきます。
私のクリニックを訪れる不妊症の患者さんの中には、40代の女性も多くいます。そのほとんどは「望めばいつでも妊娠できる」という意識を持っています。女性の卵子は、お母さんのおなかにいたときがピークで一生涯増えることはなく、ダイエットや喫煙は卵子の減少を加速させること、よい卵子から排卵していくため、妊娠・出産できる年齢は限られていることを知ってもらい、「今から自身のライフプランを考えていこうよ」と結んでいます。
また、私が初めて受け持った患者さんは、末期の子宮頸がんでした。中心静脈栄養に尿道バルーンと全身に管がつながれ、大きなおむつをしていて、その傍らにはいつも患者さんに寄り添う小さな男の子がいました。「マザーキラー」である子宮頸がん。いまや原因も対策も解明されており「ワクチンと検診で予防ができる」ということも、子どもたちにぜひ知っておいてほしいポイントです。
自信と誇りを持って生きてほしい
最後に、正しい知識を持つことで、「自分の体は自分で守る」こと、そして性別違和やLGBTを広く認識してもらうために「みんなは一人じゃない」「自分らしく生きようよ」というメッセージを添えています。
全ての子どもたちに自信と誇りを持ってもらえるよう、願いを込めて、毎回の講演を終えています。
八田氏の性教育講演風景
【今月の人】 八田 真理子
産婦人科医。聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田院長。日本産科婦人科学会専門医、母体保護法指定医、日本マタニティフィットネス協会認定インストラクター。1990年、聖マリアンナ医科大学医学部卒。順天堂大学、千葉大学、松戸市立病院産婦人科勤務を経て、98年に千葉県松戸市で女性のためのクリニック「聖順会ジュノ・ヴェスタクリニック八田」を開業。思春期から更年期まで幅広い女性の診療に当たっている。