河野 美代子 |
いつかはきっと
河野産婦人科クリニック(広島県広島市) 河野 美代子
若い人は無知
中学生に講演するとき、「皆さんたちはまだ中学生だからピンとこないかもしれない。でもね、この中のほとんど全ての人が"いつかはきっと"『性』の現場に出くわす時が来るからね。その時のためにも、これだけは知っていてほしい、ということを話しますね」と言います。
私は、若い人は無知だと言います。私たちが若い頃に比べて、比べものにならないほど膨大な情報に接して、知っているかのように見えますし、本人たちもそう思っています。でも、実は無知。私の現場では、圧倒的に既に行動をとった若者たちに接します。その彼らがちゃんと知っているか、知っていて行動をとっているかというと、決してそうではありません。むしろ逆。知らないからこそ行動がとれる。
ちゃんと知れば知るほど、行動は慎重になるはずなのです。知識がなかったり、間違った知識で行動をとると、どんなことになるか、目に見えています。
性は生殖である
では、何が無知か。
何よりも「性は生殖である」ということ。妊娠する行為であるということ。1回だって妊娠するのだと、この当たり前のことが自分の行動と結び着いた「力」としての知識になっていないのです。何回かしているうちに妊娠するらしいとか、避妊がいい加減だったりしています。
それから、妊娠は「女性だけがするもの」という、この当たり前のこともきちんと捉えられていません。私は「さらば悲しみの性」(1985年の著書)以来、「妊娠する性を持つ女性は、自分の体に責任を持て。妊娠させる性を持つ男性は、女性の体に責任を持て」と言い続けています。
妊娠週数の数え方、出産の予定日、いつまで中絶が可能であるか、男性のマスターベーション、ペニスのサイズ、女性の月経痛など、体の基本もしっかり話した上で、私は最後に避妊の話をします。
「もう一度言いますね。この中のほとんど全ての人が"いつかはきっと"避妊が切実になる時が来るからね。時期はみんな違うでしょう。子どもを何人か産んだ後かもしれない、前かもしれない、間を開けたい時かもしれない。それから、今はまだ分からないけれど、この中にも一生性交をしない人だっているかもしれない。みんなが必ずしなければならないものでは決してないからね。それからこれも今はまだ分からないけれど、大人になったときに子どもができない人もいるかもしれない。それから、中学生にもなれば自分で分かることなのだけれど、人を好きになるときに、異性ではなく同性を好きになる人もいるかもしれない。それはそれでいいのですよ。人を好きになるときに、男は女、女は男しか好きになってはならないものではありませんからね。ただ、同性同士だと、赤ちゃんがほしいというときには、いろいろとハンディがあることは確かだね。そういう人がいるかもしれないけれど、ほとんどの人が"いつかはきっと"避妊が切実になる時が来るから。だから、最後に避妊の話をしておきますね」と。
相手の75%は社会人男性
私は、中学生たちには「性交をしないこと」のみを教えるように、そして、避妊などを具体的に教えると興味を持つ、そそのかすから教えないようにという人には異論があります。
なぜなら、私のクリニックのデータでは、10代女性の性の相手の男性は圧倒的に、75%が社会人だからです。学生の間に、どれだけの知識を得、どれだけの意識をつくっておくか、それが大切だと思います。
たとえ今中学生であろうと、"いつかはきっと"性交をするものだと考えて、精一杯伝えておきたいと思います。
教師の卵たちへの講演も行う
【今月の人】 河野 美代子
1972年広島大学医学部医学科卒業。現在、医療法人河野産婦人科クリニック理事長。
1989年、エイボン教育賞受賞。2011年、日本家族計画協会長賞受賞。2013年、母子保健家族計画事業功労者厚生労働大臣表彰。