思春期の子ども達を対象とした電話相談をスタートさせたのが一九八二年度。2年後の八四年度からはわが国で先駆的な役割を果たしてきた思春期婦人科クリニックを開設している。以来、〇三年度まで電話相談は22年、診療活動は20年を数えている。この間、「東京都・不妊ホットライン」(九六年度)、「ピルダイヤル」(〇〇年度)、「東京都・女性のための健康ホットライン」(〇三年度)など時代の要請に応える新規事業を加えてきた。恒例となっている「リプロダクティブ・ヘルスセンター事業実績」報告では、時代の特徴を浮き彫りにさせながら〇三年度の活動実績をまとめた。
(本会クリニック所長・北村邦夫) |
男性からの相談が女性の2・6倍
「思春期ホットライン」には六〇五九件(男性四三九三件、女性一六六六件)の相談が寄せられた。〇二年度が五六五一件であったので四〇〇件程の増加となっている。以下、興味深い点を列挙した。
(1)男性からの相談が72・5%
例年同様、男性からの相談が女性の2・6倍であった。相談者の年齢を見ると、20歳未満からの相談が男性の74・7%、女性の39・6%で、男女差が著しい。
ちなみに2歳階級別にみると、男性では16~17歳がトップ(30・3%)で18~19歳(26・9%)、14~15歳(15・8%)の順。女性は30歳以上が15・9%と多く、次いで18~19歳14・2%、20~21歳(13・5%)、16~17歳10・4%となっている。
(2)相談内容は年齢を反映
年齢と相談内容のうち上位に占めるものについてまとめたのが表1である。男性は自慰(17・2%)、包茎(17・0%)、射精(14・3%)、女性では緊急避妊(30・7%)、月経(13・1%)、妊娠(7・8%)が3大悩みとなっている。男子からの相談で自慰がトップを占めたのは、バーチャルイメージ時代の性の象徴とは言えないだろうか。
表1 年齢と相談内容 |
情報の3割はインターネット
(3)情報経路は「インターネット」が他を圧倒
最大の特徴は、情報経路でインターネットが3割を超えたことである(男性31・1%、女性34・9%)。次いで、男性では友人(18・6%)、本/雑誌(11・0%)、女性では本/雑誌(17・3%)、学校(10・4%)の順。表2のように、性別、年齢によって情報源には大きな違いがあるようだ。
(4)昨年度から「東京都・女性のための健康ホットライン」を開設したが、相談件数は八六件に留まった。緊急避妊、妊娠・妊娠不安、月経に関すること、不妊などの相談に目立った。周知には時間がかかりそうだ(TEL〇三―三二六九―七七七〇)。
表2 性別・年齢別情報源(26歳以上は省略) |
クリニック受診2千6百6人
昨年度は婦人科に2千475人、泌尿器科(「手術をしない明るい包茎外来」)に110人、精神科に21人が訪れている。精神科は婦人科との連携診療の形がとられている。
筆者が本会クリニックに赴任した八八年度からの16年間の患者数は初診(保険上、3か月以上受診がないと初診扱いとなる。ピル服用者など自費診療の場合にはその限りではない)が5千87人、再診3万2千313人、合計3万7千4百人となっている。
八四年度からちょうど20年。クリニックで初めてカルテを作成した患者数は、現在把握できているだけで四七八三人である。これを集計することは、本クリニックでの患者動向を探る意味では興味深い。
ここでは、20年間を5年毎に1期(八四~八八年度、584人)、2期(八九~九三年度、1千315人)、3期(九四~九八年度、1千435人)、4期(九九~〇三年、1千449人)にまとめてその特徴を探った。避妊を目的に幅広い年齢層が来院
(1)平均年齢は20歳未満
患者の平均年齢は19・3歳。4期に分けた年齢はそれぞれ、19・9歳、19・2歳、18・7歳、19・7歳。思春期クリニックを前面に出しているとはいえ、冠には「家族計画」が付いていることもあって、低用量ピルや子宮内避妊具を使いたいなど、避妊を目的とした来院者が増えている。最高年齢は66歳。ホルモン補充療法を受けた患者である。
「手術をしない明るい包茎外来」も好評で、0歳児が連れてこられることもある。最近の5年間ではやや年齢層が高くなる傾向が認められる。
(2)クリニックを知るきっかけは「学校」が29・6%
診療日は毎週火曜日と金曜日、第二土曜日と限られているために、「予約制」を原則としている。学校からの紹介(30・0%)、新聞・雑誌・テレビ(22・2%)、友人からの紹介(15・8%)が上位を占めている。最近の傾向としては「インターネット」を通じて来院する患者が増えている。最近は避妊・緊急避妊が目立ち
(3)主訴―この5年間は「緊急避妊」が急増
初診時の平均年齢が20歳未満であることから、「思春期クリニック」の面目を保っているが、「無月経」などが多かった時期に比べて「避妊」「緊急避妊」の割合が目立っている。
20年間の主訴で最も多かったのは(妊娠はしていないが)月経がない(25・2%)。次いで避妊(15・0%)、緊急避妊(10・3%)、おなかが痛い(9・3%)、月経の異常(8・9%)などとなっている。ここ5年間についてみると、第一位は緊急避妊(27・5%)、月経がない(17・8%)、避妊(15・1%)、月経の異常(9・8%)の順。
特に、一九九九年6月に承認された低用量ピル、国の承認はないものの草の根的に全国に広がりつつある緊急避妊ピルの普及など時代とともに、このクリニックの使命が明らかに変化していることがわかる。
(4)続発性無月経が第一位
20歳未満を15歳未満と15~19歳にわけて診断名をまとめたものが表3である。15歳未満で「その他」が多いのは、「手術をしない明るい包茎外来」の患者がここに分類されていることが影響している。ハイティーンでは、一挙に緊急避妊や緊急避妊以外の避妊が増えるのは、世代の抱える問題を知る上で興味深い。
表3 20歳未満の診断名 |
緊急避妊の情報提供は年間一一七〇件
このクリニックが開設している『ピルダイヤル』(TEL〇三―三二六七―七七七六)にはピル関連の相談以外に緊急避妊ピル処方施設を求める電話(EC相談)が殺到している。昨年度は『ピルダイヤル』には二〇三四件の相談が寄せられているが、そのうち緊急避妊に関しては一一七〇件(57・5%)であった。EC相談には興味深い特徴が挙げられる。
(1)『ピルダイヤル』、EC相談以外では
ピルを現在服用中という人が24・2%を占め、その内容としては、服用方法、避妊効果、副作用、飲み忘れの対処法などの相談が多い。
(2)相談は10時に集中
一日の相談時間は6時間に過ぎないが、EC相談は10時台が33・7%と他の時間帯に比べて有意に高い。モーニング・アフターピルの言葉通りである。特に、週明け月曜日の相談件数は、他の曜日に比べても明らかに多く、非常事態に直面したカップルの戸惑いが見えるようだ。
(3)電話は全国各地から
EC相談は東京都(31・7%)、神奈川県(12・0%)、千葉県(6・7%)、埼玉県(6・6%)と東京近郊4都県で57%を占めているが、『思春期ホットライン』と比べても、相談者は明らかに全国に広がっていることがわかる。まさに、ここが、全国のEC駆け込み寺となっているとは言えないか。六一四人がECを求め
(4)情報源はインターネット
EC相談を知るきっかけは、71・4%がインターネット。次いで、本/雑誌10・7%、友人5・9%、学校3・2%で時代とEC相談の特徴が現れている。
(5)EC相談利用者の平均年齢は25・2歳
最年長は48歳、最年少は13歳であった。年齢分布から見ると、20~24歳が36・2%でトップを占め、25~29歳25・7%、19歳以下15・6%、30~34歳13・8%と続く。年齢と情報源との関係については、19歳以下がインターネットよりも学校(15・8%)、友人(12・0%)が他に比べて概して高く、周囲にヘルプを求める若い世代の姿がかい間見える。
(6)614人が緊急避妊を求めてクリニックへ
このクリニックで本格的に緊急避妊法(EC)の提供を始めてから7年余が経った。この間、ECを求めて来院した女性は614人(下図)。ECピル服用後、出血の有無まで判明したのは421人で、妊娠は11人(2・6%)に起こっている。
8年目を迎えた東京都不妊ホットライン
一九九六年度より「生涯を通じた女性の健康支援事業」の一環として、東京都からの依託を受けてスタートした「東京都・不妊ホットライン」は、既に8年目に入り、受けた相談件数は七五五九件に上る。
〇三年度の実績は七六八件と例年に比べてやや低調であったことは否めない。男性からの相談が五〇件(6・5%)に対して女性は七一八件(93・5%)。
不妊の深刻さは、いずれの時代も女性の問題であることが浮き彫りされる形となっている。
(1)34%が東京都民からの相談
東京都から委託されて実施している相談事業であるが、メディアなどの取り上げもあってか、東京都(33・7%)、神奈川県(18・6%)、千葉県(6・3%)、埼玉県(8・5%)、その他(28・3%)など、広く全国からの相談となっている。
(2)相談の中心は「家事専業」
不妊の深刻さは、治療のために相当な時間と費用がかかることである。相談者の職業分類を見ると、専業主婦が59・6%と、フルタイム(16・8%)、パート(14・6%)をはるかにしのいでいる。不妊治療を受けるには、日常の仕事を続けていることは困難であるということか。
表4 相談内容と相談者の平均年齢 チーム医療が強調された第28回学会 悩みのトップは「治療への迷い」
(3)情報源は本/雑誌
「東京都・不妊ホットライン」の相談番号を知る方法としては本/雑誌が最も多く57・6%、次いでインターネット14・1%、新聞8・22%などとなっている。確かに、新聞紙上で取り上げられると一時的な相談件数の伸びはあるものの、継続するには本や雑誌での取り上げが有効であると思われる。
(4)悩みのトップは「治療への迷い」
「知りたい情報」「治療について」「治療外のこと」にわけて、相談をしてきた人が関心をもっている項目について集計すると、最も多かった悩みが、「治療への迷い」24・7%、「自分自身のこと」17・2%、「病院への不満」11・1%、「病院情報」10・5%、「周囲との人間関係」9・4%と続く。当事者相談であることが定着したのか、共感を得ながら不妊である自分を見つめて悩みを訴える声が目立っている。
(5)相談時間が2時間を超える例も
相談時間の平均は26・6分であるが、140分を要する相談もあった。相談員によれば、受話器を置くにも置けない雰囲気があったというが、不妊の悩みの奥深さをかい間見る経験となった。「二人目はまだ?」の責めを受け
(6)二人目不妊の深刻さ
相談者には「既に子どもがいる」者が16・9%いる。いわゆる二人目不妊である。自分がどんなに苦労して子どもを産んだかなど周囲は知る由もない。中には、高額な費用を支払って高度生殖医療の恩恵に預かった人もいただろう。しかし、自分の子が、高度生殖医療の進歩の結果であるなどということを公言することはない。
そために、周囲からみればいとも簡単にできたとでも誤解されるのだろう。「二人目はまだ?」の責めを受ける。二人目不妊は原発不妊(今まで妊娠経験がない場合)の深刻さを超えることも少なくない。
(7)主な相談内容と相談者の平均年齢
主な相談内容と相談者の年齢との関係を明らかにしたい。表4にあるように、生殖可能な年齢を終えようとしている人のため息が伝わってくるようだ。ちなみに、相談者の年齢が最も高かったのは「代理母・卵提供」で40・3歳。平均年齢がもっとも低い人の相談が「セックスに関すること」で30・9歳。
(8)3割近くがリピーター
「東京都・不妊ホットライン」を過去に何回利用したかを尋ねると、初めてが71・0%であるものの、2回目14・1%、5回以上が5・7%であった。相談日の火曜日を今か今かと待ち続けている人達の姿だ。本年も多彩な活動
〇三年度もLaLaTV「パーフェクトH」にレギュラーで出演したり、母子保健家族計画全国大会の企画の一部を任されたりするなど、多彩な事業に取り組んだ。
厚生労働科学研究班「男女のコミュニケーション・スキルの向上に関する研究」は、3年計画の2年次を終えた。「避妊と性感染症予防のために実践セミナー」を全国8か所で開催、総数1千700人近くの参加者を得た。以下、著書には、新たに「いつからオトナ?こころ&からだ」(集英社)などが加わったが、ここでは主な発表論文を下の表に列挙した。
1)男女間のコミュニケーション・スキルの向上に関する研究、平成14年度厚生労働科学研究(子ども家庭総合研究事業)報告書(第6/11)、主任研究者佐藤郁夫、望まない妊娠、人工妊娠中絶を防止するための効果的な避妊教育プログラムの開発に関する研究、分担研究「男女間のコミュニケーション・スキルの向上に関する研究」、522-659、2003.
2)性教育の現状と役割 産婦人科医の立場から、教育と医学、51(8):71-81、2003
3)思春期の性の悩みとその対応 Adolescent'Sexuality and WorriesHow to tackle with them、栃木県産婦人科医報、30(1):61-69、2003
4)避妊フィルムの製造中止理由、日本医事新報、No.4120100-101、2003
5)思春期診療の実際とカウンセリング、思春期と避妊、臨婦産、57(9):1178-1181、2003
6)性と共生、男女の生活と意識に関する調査、婦人新報9月号、N0.1236、2003
7)女性のヘルスケア―21世紀の新たなる展開、セックスとジェンダー、日本医師会雑誌、130(5):732、2003
8)「男女の生活と意識に関する調査」結果から、性教育の新しい課題を提起する、現代性教育月報、21(7):1-4、2003
9)第26回日本産婦人科医会性教育指導セミナー(総合討論)、産婦人科の世界、56(1):71-74、2004