2009年度日本家族計画協会家族計画研究センター・クリニックの活動報告
本会家族計画研究センター・クリニック所長 北村 邦夫
本会家族計画研究センター・クリニックで実施している電話相談、診療、研究等の2009年度事業実績について、以下報告する。
わが国のリプロダクティブ・ヘルスの向上に深く関与する出来事が続いた一年であった。
OC承認10年目
米国に遅れること40年、1999年6月に悲願であった低用量経口避妊薬(OC)が承認され、9月に発売されてから10年目を迎えた。2008年9月に実施した「第4回男女の生活と意識に関する調査」の結果によれば生殖可能年齢女性のうち現在OCを使用している女性は3・0%、前回(2006年)が1・8%であるから1・2ポイントの増加となっている。
欧米に比べてOCの普及率は低いとはいえ、わが国の人工妊娠中絶実施率の減少に寄与していることは産婦人科医を対象とした「緊急避妊ピル並びに低用量ピルの処方実態に関する調査」(2009年1月)からも明らかである。
本センターではOC発売10年を迎えて、2009年5月と9月にメディアセミナーを、OCの適正使用のために「避妊指導に関わる医師とコメディカルのためのOCスキルアップセミナー」を東京・福岡・大阪の3か所で開催。「指導者のための避妊と性感染症予防セミナー」を全国8か所で開催した。
さらに「OCサポートコール」「ピルサポートデスク」など各種電話相談を開設するなどOCの更なる周知と普及に努めた。
EC承認に向け申請
長年の懸案であった緊急避妊ピル(EC)も2009年9月30日に承認に向けて申請された。今回申請された黄体ホルモン単独剤については安全性と有効性が高く評価されているが、国連加盟国192か国の中でペルー、チリ、イラン、アルジェリア、アフガニスタン、北朝鮮などが未承認国となっている。望まない妊娠を回避するために、「知らないのは愚か、知らせないのは罪」とまで言われているECが、わが国で公に承認される日が期待される。
HPVワクチン接種開始
本会家族計画研究センター・クリニックでは3年余にわたって4価対応の子宮頸がん予防ワクチン(HPVワクチン)の開発に関与してきたが、遂にキーオープンの日を迎えた。結果、異型細胞が出現して手術に至った症例についてワクチン接種群ではなく、プラセボ群では3人いたことが判明した。わが国でも2009年12月22日から2価対応ワクチンの接種がスタートし、当センター・クリニックにおいても接種者が続出している。
OC関連相談は7551件
本センターでは、バイエル薬品㈱との共催で「OCサポートコール」を、ワイス㈱の協力を得て「ピルサポートデスク」を開設し、OC相談にあたってきた。
09年度の「OCサポートコール」には6424件の相談が寄せられている。この件数は年間レベルでは過去最多となっている。年齢をみると、平均が29・7歳であり、ピークは25~29歳が27・2%と最も多く、35歳以上25・5%、20~24歳23・0%、30~34歳20・4%と続いている。20歳未満も233件(3・6%)あった。職業別には社会人が71・5%、主婦・家事専業16・4%、大学生9・3%の順。相談内容は表1の通りであるが、トップは「飲み忘れた場合の対処法」19・6%、次いで「禁忌」17・8%、「副作用」14・3%、「薬物相互作用」10・8%となっている。相談時間は平均3・5分で76・7%が5分未満、5~9分が20・1%。
「ピルサポートデスク」の相談件数は1127件。02年1月に開設したが、相談件数は年々減少傾向にある。この電話相談は10年4月からはあすか製薬㈱との共催で「OCコール」として新たなスタートを切った。
思春期・FPホットラインは4197件
思春期・FPホットラインは1982年に開設以来26年間が経過している。09年度の相談件数は4197件(男性1761件、女性2436件)。女性が全体の58%を占めている。年齢分布をみると、ピークが男性では15~19歳(67・0%)、女性では35歳以上(24・4%)。これを反映してか、20歳未満の割合は男性80・6%、女性26・9%となっている。未婚者の割合も男性98・1%、女性72・2%であった。
電話相談を知るきっかけとしては、男女ともに「インターネット」がトップで、それぞれ65・3%、66・9%。次いで男性では「友人」9・3%、「学校」7・3%、女性では「保健所など公的機関」9・2%、「本/雑誌」4・6%である。表2に男女の悩みの主訴をまとめた。
東京都・不妊ホットライン
1997年から始まった「東京都・不妊ホットライン」は12年が経過した。09年度の相談件数は365件で、1176件だった00年度に比べて3分の1程度と減少している。その一方で、1件あたりの相談時間は平均26・8分(最大60分、最小1分)となっている。相談者の年齢は37・1歳と高年齢化が顕著である。各カテゴリーの年齢階級別相談内容は表3の通り。
東京都・女性のための健康ホットライン
東京都の委託を受けて開設している「東京都・女性のための健康ホットライン」には679件の相談が寄せられている。5歳階級別では、35歳以上が最多で52・0%、次いで25~29歳14・3%、20~24歳12・2%、30~34歳11・6%と続く。相談内容で一番多かったのが、病気全般に関わることで163件(24・0%)、妊娠・妊娠不安132件(19・4%)、月経に関すること78件(11・5%)、更年期59件(8・7%)、精神・心43件(6・3%)などとなっている。本会のホットラインの相談員は助産師などが中心であることから、「精神・心」などの悩みについては極力精神保健福祉相談、こころの健康相談などに紹介することとしている。
HPVワクチン、既に17人接種
09年12月22日に発売されたHPVワクチン。本会クリニックでの接種第1号は21歳の女性だった。セックスを始める前にワクチンを接種するようにという母親との約束を守る行動であった。わが国では、年間約1万5千人が子宮頸がんを発症し、約3千5百人が死亡している。近年は特に20代、30代の女性に増加しており、早期発見が遅れて子宮の摘出を余儀なくされ子どもを産むことができなくなる女性、中には、広範囲な転移が死を招くことだってないわけではない。HPVワクチンの接種が始まったことは、そんな女性達には明らかに朗報である。現在日本で接種可能なワクチンは、子宮頸がんの70%を占めるとされるHPVの16型と18型。接種は0、1、6月の3回。これで20~30年程度効果が持続するといわれている。また、近いうちにHPV16型、18型に加えて尖圭コンジローマのおよそ90%を占める6型、11型を予防するさらに進化したワクチンが登場することになっている(注=このワクチンは0、2、6月の3回接種)。
メディア情報が奏功してか、HPVワクチン接種は年度内だけで17人、その後も続々と希望者が増え続けている。
緊急避妊外来、10年で822人受診
緊急避妊法(EC)とは、避妊しなかった、避妊に失敗した、レイプされた等に引き続いて起こる危険性の高い妊娠を回避するために利用する最後の避妊手段である。認知度の高まりから最近では「知らないのは愚か、知らせないのは罪」とまで言われている。わが国の場合、長年にわたって月経困難症や月経周期異常の治療薬として使用されている商品名「プラノバール」がエストロゲン(E)とプロゲストーゲン(P)の配合剤を用いたEC、いわゆるヤツペ法に準じて医師の判断と責任によって処方されてきたという経緯がある。最近では、EP配合剤に比べて悪心や嘔吐などの副作用が少ないことから世界保健機関などは黄体ホルモンの一種であるレボノルゲストレル(LNG)単独剤の使用を推奨しているが、わが国では09年9月30日に承認申請されたばかりである。
本センター・クリニックではヤツペ法と、05年3月30日と09年11月28日に「医薬品輸入報告書」を提出し、「医師個人使用」との目的で厚生労働省関東信越厚生局薬事監視員より承認を得て入手したLNG単独剤(商品名「ノルレボ」)の使用経験を重ねてきた。00年4月から10年3月末までにECを求めて私どもの外来を訪れた822例、そのうち妊娠の有無、副作用まで確認できた症例は528例(ヤツペ法210例、LNG法318例)であった。
ECを必要とした理由をまとめたものが図1である。コンドームにまつわる問題で来院した女性が6割近くを数えている。
ヤツペ法とは、商品名「プラノバール」(エチニルエストラジオール50μg+ノルゲストレル 0・5mg)を性交後72時間以内に2錠服用、その12時間後に同量服用する方法。LNG法とは性交後72時間以内(遅くとも120時間以内)に750μgのLNG単独剤2錠を服用する方法であり、本会ではLNG単独剤の早期承認を求めてアドボカシー活動を展開してきた。
本会クリニックで長年にわたって使用してきたヤツペ法とLNG法を比較すると、後者の方法がいかに安全であるかは一目瞭然である(表4)。レイプ被害に遭った女性に対して、現在47都道府県で「犯罪被害者に対する医療支援事業」の一環で緊急避妊法が無料で提供されているが、ヤツペ法の使用は極力避けるべきで、一日も早いLNG法の承認が期待される。
EC外来を開設するうえで心掛けていることは、「ECからOC(ピル)へ」の行動変容を促すことである。不確実な避妊法に依存するのではなく、女性が主体的に取り組める、より避妊効果の高い方法を提供することこそ、私たちの責務である。事実、本会クリニックでECの服用機会を持った女性の90%がその後OCを採用している。