本連載では職域保健の現場で活躍されている方に様々な取り組みをご寄稿いただいています。今回は株式会社コーセー ライフ&ウェルネスサポートセンター ウェルネス推進室産業保健師の山口仁美様さんに、同社での健康管理支援体制や、女性社員の健康課題への対策、雇入れ健診時の対応などについてご紹介いただきます。(編集部)
2024年1月に株式会社コーセーと株式会社アルビオンは新しい健康管理体制を始動し、ライフ&ウェルネスサポートセンター ウェルネス推進室を設立しました。まだ新体制が立ち上がったばかりですので、今回は私が入社以来、健康管理支援に携わってきた株式会社アルビオンの取り組みをご紹介いたします。
株式会社アルビオンは1956年に創業し、高級化粧品の開発、製造、販売を行っています。「アルビオンは、高級化粧品の第一人者として、本物志向に徹し、美しい感動と信頼の輪を世界に広げる」を経営理念に、高級品にふさわしい品質やサービスを追求し続けています。
健康管理体制は、従来の産業保健看護職、全国各地の分散事業所を担当する産業医、有事に備え感染症規定や転倒防止などに関するアドバイザー医師の他、今年度からはカウンセラーとの契約も導入しました。さらに、弊社女性社員に頻出する痩せや貧血といった健康課題への対策として、対象者との個別面談における看護職の知識拡充のため、管理栄養士から講義を受けることも検討しています。より一層チーム全体で協力し、健康管理体制の構築と拡充に取り組んでいます。
近年、男女ともに就業率が上昇していますが、特に女性の就業率は顕著に増加しています。年齢階級別の女性の就業率についても、従来のМ字カーブの傾向から変化し、近年はカーブの底が大幅に上昇し、くぼみが浅くなるとともに、全体的に大きく上方にシフトしています。以上のような背景から、働きながら女性特有のライフステージに伴う身体や心、生活の変化による課題と就労との両立を求められる女性が増えてきたことが予想されます。国全体でも女性が活躍し、健やかで充実した毎日を送り、安心して安全に働けることが2023年の「女性版骨太の方針」で掲げられています。弊社は約3,300名の職員のうち、女性が8割以上を占め、多くの働く女性に支えられています。私自身も産業保健師として、重点を置いて取り組んでいきたい課題のひとつと感じています。
2018年に日本医療政策機構(HGPI)が発表した「働く女性の健康増進に関する実態調査」になぞらえて、昨年度、弊社でも男女全職員を対象に「女性の健康管理に関するアンケート」を実施しました。また今年度からは、新入社(中途採用含む)の販売職員向けに健康状態や健康意識に関するアンケートを作成し、随時集計を行っています。アンケート内容は「月経トラブルとその対処方法」「婦人科検診実施状況」「生活習慣」などについて十数問の質問を設けました。集計結果はまだ微々たる件数ですが、継続的な集計から、弊社における女性の健康課題は何か、どういったアプローチが必要か、少しずつ実態がつかめてくることを期待しています。
新入社の販売職員向けの取り組みとしては、アンケートでの健康実態調査のほか、産業保健スタッフの存在の定着化や、職員が主体的に相談できる関係構築、不調者の早期発見・早期対応などを目的とし、例年メンタルヘルス対策の講義やグループワーク、雇入れ健診有所見者との面談を実施してきました。今年度からはそれらに加え、有所見者だけでなく、新入社の販売職員全員を対象とした保健師との個別面談を開始しました。個別面談では、前述のアンケート結果をもとに、かかりつけの産婦人科医の重要性や婦人科検診の受診を勧めるなどの情報提供をしています。1人当たりの面談は短時間ですが、入社早期の慣れない環境の中、多くの不安を抱えているこの時期に、お互いに顔を合わせて話をする機会を持つことは、これからの就業生活を送る上で会社全体や産業保健体制への安心感や信頼感につながると考えます。また、比較的若い世代が、自分の身体について考える機会を提供することで、これから先の長い労働生活において主体的に健康を意識し、自己保健義務を果たすことにつなげたいと考えています。
さらに、当事者である女性への支援だけでなく、共に働く男性職員への支援にも注力しています。前述した「女性の健康管理に関するアンケート」の結果から、弊社の男性職員の9割以上が、女性の健康に関する研修などを受けたことがないと判明しました。この結果を受け、女性特有の疾患(月経前症候群、更年期、子宮頸(けい)がん、乳がん)を題材に、女性職員が自分の身体について知ることはもちろん、男性職員が女性の健康管理について“興味・関心を持つこと” “正しい知識を得ること”を目指し、全職員向けに情報提供としてのメール配信を行いました。男性にとっては自分の身体に起きることではないですが、共に働く仲間のこととして他人事ではなく自分事の意識を持って、正しい知識を身に付けることで、誰もが働きやすい社会を築いていくことができると考えます。
丁寧な個別支援を継続しつつ、集団(会社全体)への支援展開を目標に、職員がより健康で、安心した労働生活が長く続けられるよう、アンテナを高く張りながら、常に課題を見極め、求められる支援を検討し実践していきたいです。「女性の健康支援」ではありますが、これまで以上に男女問わず会社全体として学ぶ機会や考える場が重要になってくると感じています。私自身も専門職として自己研鑽を怠らず、変化する社会の動向や最新の情報をキャッチしながら、一人でも多くの労働者が安全・安心な労働環境で長く働けるように努めていきたいです。