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職域保健の現場から

職域保健の現場から<57>
開業保健師としての女性の健康支援

第838号

Wholwell(ホールウェル)合同会社 代表(保健師)松尾 玲奈

 本連載では職域保健の現場で活躍されている方に様々な取り組みをご寄稿いただいています。今回は開業保健師として幅広い分野でご活躍されているWholwell(ホールウェル)合同会社代表で保健師の松尾 玲奈さんに、事業場や自治体での女性の健康支援、高年齢女性の労働災害防止などを進めていく際の意識、心掛けていることなどについてご紹介いただきます。(編集部)

自己紹介

 私は大学を卒業後、新卒保健師として自動車メーカーに入社し、産業保健のキャリアをスタートしました。約20年間、転職はしなかったものの、分社や会社の統合など、すさまじい会社の変化を経験し、小規模事業場の産業保健活動の困難さに直面しました。経験年数を重ね自分の今後のキャリアを考えた時に、産業保健がまだ届いていない事業場に産業保健を届けたい、産業保健の枠を越えてウェルビーイングに携わりたいと考えるようになりました。現在は新卒で入社した会社を退職し、大学院生生活を経て、開業保健師として事業をスタートしています。

開業保健師としての働き方

 開業してからは、数社の産業保健業務受託と、神奈川産業保健総合支援センターの産業保健相談員、スポットでの研修や健康教育、開業産業医及び開業保健師の事業協力、健康教育動画コンテンツ制作などを行っています。いずれも、1社で長く産業保健に従事した経験をもとに事業を展開しています。産業保健以外にも、とあるご縁がきっかけで自治体の新生児訪問のお手伝いを始めました。最近は新生児の両親ともに就労者でかつ、父親の育児休業やテレワークも増えており、訪問時には両親揃ってお話を伺うことも多くなりました。”働く人”の生活を地域視点で支援できるのも、開業保健師になったからこそ経験できていると思っています。

女性の健康支援の実際

①動画による教育コンテンツの提供
 女性の健康支援は、健康経営の指標ともなっていますが、何から始めたら良いのかお困りの事業場も多いです。特にコロナ禍以降、健康教育の動画を作成してご提供するというリクエストが目立ちます。女性の健康に関するものと言っても、月経周期、周産期、更年期、プライベートと健康と仕事の調和など、ライフステージに応じて様々な健康課題が考えられます。日々忙しく働く現代人にとっての視聴のしやすさを考慮し、各コンテンツに分かれた短い動画が好まれているようです。
 受講者に直接届けるためには、対面での教育研修を幅広く展開していくことが理想的ですが、まだまだ職域全体に届けるための資源やネットワークは十分にありません。その点では、動画コンテンツなどによって発信し、少しでも行き渡るように働きかけるのも選択肢の一つと捉えています。
 動画制作の技術はありませんが、産業保健の現場にいる保健師だからこそ、労働者との近い距離感で伝えることを意識して制作し、提供するようにしています。

②健康や人生に向き合うことの支援
 女性の健康問題は、それぞれの人生にも関わることが多く、時に重要な決断を迫られます。
 「月経がつらいことを職場の誰にどう伝えたら良いか」
 「不妊治療が必要だが仕事にも集中したい」
 「不妊治療をいつ終結させるか」
 「配偶者と家事や子育ての分担についての価値観が異なり、フラストレーションが溜まる」
 「介護と仕事はこなしているが休息できていない」
 「月経困難症の根治手術を提案されたが、術後心身ともにどうなるのか」
といった相談に出会うことがしばしばあります。
 女性の健康問題・人生にまつわる困り事は、時に孤独な葛藤になり、不安と隣り合わせの日常の中で周囲の何気ない言動によって傷ついている場合も少なくありません。
 お話を聴く際は、ご本人が自身の状況(思考・感情・行動・環境)を客観的に捉え、自己決定していただけるように伴走的な支援を心掛けています。実際のところ、支援をするよりも、専門医療機関や相談機関の情報、起こり得る状況や心情などについて、私自身が多くのことを学んでいます。

持続的な支援のために

①情報のアップデート
 保健師としても女性の健康に関する知見や情報のアップデートが必要だと感じています。先日は産婦人科の医師による女性の健康支援に関する研修を受講しました。月経周期、月経困難症、月経随伴症状、更年期障害、それらの治療やセルフケアについて、学び直す貴重な機会になりました。女性にとどまらず、働く全ての人に知っていただきたい内容でした。
 さらに、最近ではフェムテックの製品やサービスも増えてきました。フェムテックと一括りにしても、月経周期、不妊治療、生活習慣など種類もたくさんあるようです。今後これらを活用する女性が増えてくることも予想されます。これからの時代を生き抜く女性が、それぞれに適切かつ有効なツールを使い、セルフケアできるように、支援者としても医学的な知見とともに新技術やサービスの情報収集をしていきたいと考えています。
②高年齢女性の労働災害防止
 第14次労働災害防止計画(2023年度からの5か年計画)(※注1)では、「労働者(中高年齢者の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進」が重点項目の1つとなっています。2022年度の65~69歳の転倒災害千人率(※注2)は、25~29歳に比べて男性が4.8倍、女性は17.6倍でした。このように、高年齢になるにつれ男女ともに転倒災害は発生しやすいものの、特に女性は年齢に伴う骨密度や体幹などの身体機能の低下が大きいため、被災しやすいことが推察されています。
 転倒災害は、業種によっても災害発生件数は異なりますが、通勤や職場内での移動がある以上、あらゆる業種において誰にでも起こり得ることです。自分事として捉えて、契約先の業種に拘らず、事業場ともリスクコミュニケーション、身体機能を維持できるような生活習慣への支援を検討していきたいと考えています。
 ※注1:厚生労働省「第14次労働災害防止計画」(2023年3月)
 ※注2:厚生労働省「令和4年労働災害発生状況の概要」令和4年労働災害発生状況の分析等(2023年5月)



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