本連載では、職域保健の現場で活躍されている方に様々な取り組みをご寄稿いただいています。今回は、モノを動かす技術“マテリアルハンドリング(マテハン)”を通して、物流システムの最適化などを行っている企業、株式会社ダイフクの人事総務部大島圭恵さんに、新型コロナウイルス感染症流行下で、職場における健康管理、職場環境改善などにどのような変化があったのか、またその中で見えてきた課題などをご紹介いただきます。 (編集部)
㈱ダイフクは、大阪に本社を置くマテリアルハンドリングシステム(マテハン)のメーカーです。マテハンとは「工場や倉庫、店舗といった拠点内でのモノの移動・保管・仕分け・ピッキングなどを効率的に行い、情報管理する」ことを言います。それらの機能をもつ機械と設備の動きを制御・管理するソフトウエアを組み合わせ、スムーズなモノの流れをつくる仕組み(自動化技術)を構築、お客様のニーズに合った製品を提供しています。例えば、ネットショッピングなど注文された品物が倉庫から出荷するまでの過程や、空港内設備の一つである手荷物搬送システム、生活に身近なものとしては洗車機などが挙げられます。
人手不足が問われる中、自動で運ぶ・仕分ける・保管ができるダイフク製品は、高い関心が寄せられるようになりました。世界26の国と地域に拠点を構え、内外で1万2千名を超える従業員がダイフクグループで働いています。
新型コロナウイルス感染症が国内で蔓延する前、中国・武漢にいた駐在員・出張者が政府専用機で帰国する頃にさかのぼります。当初は情報収集にも追われ、慌ただしく対応をしておりました。程なく社内に新型肺炎対策本部が設置され、帰国者が一時宿泊できる場所の確保、職場環境整備としては執務エリアの変更、アクリルパネルの設置、座席の千鳥配置、休憩時間の分散や在宅勤務の推奨など、ステップを踏んで感染対策が行われました。
保健師の主な役割は従業員の健康相談と健康啓発です。ワクチン接種が始まるまでの間は、従業員の不安、生活上の相談や会社への要望などが多く寄せられました。「法事があるのだけれども、新幹線で行ってもよいだろうか」「保健所に電話したけれどもつながらない」など様々です。寄せられた相談をもとに「在宅勤務や作業環境で気をつけること」「家庭内感染での留意事項」について社内報や掲示板などで啓発を行いました。
在宅勤務に慣れない従業員がメンタル不調をきたすこともあり、新入社員をはじめ、気になる方にはこちらから様子を尋ねる取り組みも行いました。感染者が療養期間を終え職場復帰する際には、復帰予定の従業員と職場の上長を交え、産業医・保健師による面談を行うなど、本人も職場も安心して復帰できる体制を整備しました。順調に回復する人ばかりではないこともあり、この面談は罹患した従業員の体調や職場の受け入れ態勢の確認、双方が快適な職場で働く環境を作る上では重要な役割だと認識しています。
感染拡大以前より、海外や拠点事業所外の従業員の面談はオンライン会議システムを利用していましたが、対面での面談ができなくなったことからオンラインでの健康支援は一気に進みました。保健師による教育研修の講師においては、慣れない頃はアクシデントの連続で、教育方法の見直しを幾度も行いました。
最近では、受講者がオンデマンド配信動画を事前に視聴し、セミナー当日はグループワーク中心のディスカッション形式に移行しています。従業員からは「事前学習が自分の手の空いたときに視聴できる」「繰り返し確認ができる」など好意的な意見もあれば、「職場から参加できるけれども、講義の休憩時間中に業務対応をすることがあり、教育に集中できない」「参加者間の交流が十分にできない」という声も聞きます。
従業員が在宅勤務や自宅療養中でも、いつでもどこでもすぐに対応できるのが、オンラインによる健康支援の強みである一方で、画面越しでその人の雰囲気や様子を感じ取ることが難しく、意思疎通ができているのか分かりにくい、また一方通行になりがちな面が課題になっています。
外部講師を招いての講演会は、これまで対面開催でしたが、ハイブリッド開催に変わり、より多くの従業員が参加できるようになりました。就業時間後に集合で行っていた健康づくりのイベント活動は、人数制限や活動休止をしたことで参加人数がコロナ前に戻らないといった課題が出ています。職場では、懇親会の機会が減りましたが、以前に比べると上司が部下の体調を気に掛けるようになりました。時には「こころと体の健康は大切だよ。運動しよう」などと声掛けをしている場面に出会うこともあります。
これまでの職場環境改善は、労働災害の未然防止や冬場の感染症予防などを目的とした「5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)」が主でしたが、最近では職場内での人との距離、空気の流れ、職場の雰囲気など保健師がアンテナを立て、五感を働かせる場面が増えたように思います。
世の中の変化のスピードは速く、コロナ前後では各々の価値観や生活のありようが変わりましたが、変わらないのはその時々に何が大切なのかを考えながら健康支援を行う保健師の姿です。
これからも慌てず焦らず柔軟な姿勢で、保健師活動を行ってまいります。