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職域保健の現場から

職域保健の現場から<50>
あらゆる場面を活用した産業保健活動
~人と組織があれば、どこでも現場となる~

第817号

医療法人精華園 海辺の杜ホスピタル 管理部健康推進室 シニア産業カウンセラー(保健師) 槇本宏子

 本連載では、職域保健の現場で活躍されている方にさまざまな取り組みをご寄稿いただいています。前々回より、高知県における産業保健活動の取り組みの現状とその課題についてシリーズでお届けしております。
 今月は、さまざまな産業保健の現場でご活躍されている取り組みについて、海辺の杜ホスピタル 管理部健康推進室 シニア産業カウンセラーの槇本宏子さんにその取り組みについてご紹介いただきます。 (編集部)

 看護師として約6年勤務後、百貨店17年、精神科単科の医療機関で13年、産業現場の保健師として30年が経過しました。
 活動対象は、①自職場 ②高知産業保健総合支援センター(以下、さんぽセンター)相談員、メンタルヘルス&両立支援促進員、登録保健師として保健指導 ③ストレスチェック実施を含めたEAP活動 ④個別依頼企業への出張相談-などさまざまです。多くの産業現場の保健師は、雇用されている事業所での活動が主だと思います。その意味では少し変わり種と言っても良いのかもしれません。その活動についてご紹介いたします。

自職場の産業保健活動

 「ストレスが多い精神科医療機関スタッフへのメンタルヘルス支援をお願いしたい」という依頼から精神科医療機関に転職しました。高知県内の医療機関で職員向けに保健師を採用しているのは、当院を含めて3か所という数少ない経験の場でした。
 当初は、治療が主な現場で、保健職をどう活用していけば良いか、私自身も組織も試行錯誤状態であったと思います。本来、医療も保健も、一人一人の健康の保持増進を目指し同じ方向性であると思うのですが、この「医療」と「保健」の違いは大きいものでした。
 復帰支援を例に考えると、前職場では「復帰時の体力は80%だからステップを上げながら支援を行う」が浸透し復帰率は100%、退職率0%でした。一方、当院着任当初は、所属長から「医療機関は命を扱っているのだから、体力100%で戻って来てもらわないと困る」という言葉があり、短時間勤務から段階的に支援したい私とは大きな開きがありました。ミーティングを重ね、半日勤務から開始することを何とか認めてもらいました。この1例目をモデルに、今では、「また復帰が近づいている人がいるから、槇本さん、復帰プランよろしく!」と短時間勤務からの支援が当たり前になっています。
 この変化を振り返ると、復帰する本人と組織が頑張ったこと、それによってこれまでは病気によって辞めていた人材が、復帰プランによって無理せずに休職前の状況に近づくことができる=辞めないで続けられる―ということを経験できた結果だと考えています。
 今回の新型コロナウイルス対策では、院内感染予防対策委員としても公衆衛生学的な見地で助言をさせていただきました。精神科に入院する患者さんの特性として、自身の体調変化をタイムリーに正確に伝えることが難しい方もいらっしゃるので予防が重要です。機器を購入した際には、全体換気、風の流れ、動線、作業内容などを聞き取りながら、効果的な換気ができるような助言、そして、実際にスモークテスターなどを活用しながら、どのように空気が流れているか確認しながら感染対策を進めました。皆さんスモークテスターに興味深々で、目で見える状況に安心した表情がありました。医療機関は法律的には換気に関して一般のビルとは違う視点が必要です。活動する業種や環境に合った対策を都度検討していく大切さを学ぶことができました。

ストレスチェック委託事業を含めたEAP活動

 当院では、県下の事業所を対象にストレスチェック実施を含めた総合的な「こころと身体、個人と組織への支援」を行っています。医療機関でありながら、保健事業も行うことができたのは、経営トップの産業保健活動への理解が広がった効果と考えています。対象は10人程度の小規模から数千人程度の大規模事業所で、業種もさまざまです。
 内容はストレスチェック実施と高ストレス者面談など、個人と組織の双方の健康に向けて支援を行っています。面談実施後は、対象者の了解を得て、人事担当者などの事業所側の要のかたがたと連携を取ります。
 また、精神科医療機関であることを強みとして、メンタルヘルス不調になったかたがたが早期治療できるよう調整し、ご本人と組織と主治医との連携に力を入れています。早期治療に結び付くと、早い回復も望めます。一時は自死の危険性もあった対象者が、医療から卒業する姿を見ると、適切な時期に適切な医療につなぐことの大切さを感じています。
 他に、複数の事業所に対し、安全衛生委員会の出席、安全衛生担当者への助言、個別の保健指導などを行っています。支援事業所から「できれば産業保健師を専属で採用したい」という声も上がってきており、保健師の必要性が理解されていく喜びも感じています。

さんぽセンターの産業保健活動

 さんぽセンターでは、月2回の定期相談日の他に、県内企業から依頼のあったメンタルヘルスや両立支援などへの訪問支援も対応しています。相談者は主に人事担当者や産業保健看護職で、「社内で配慮が必要な個々の従業員に対してどう対応したら良いか」という内容の他に、事業所としてのコンプライアンスなど、組織としての取り組み方についての相談もあります。
 産業現場の保健師は、医学的、看護学的知見にとどまらず、その事業所の業種や就業形態、従業員規模、就業規則、組合の存在など、事業所を形作っている全てについて理解しながら支援をするという特性があります。労働関係の法律も理解し、従業員一人一人だけでなく組織・集団にも行う支援です。相談内容は、メンタルヘルス対策関係が一番多く、次いで、労働衛生管理体制の整備、両立支援などです。両立支援には、事業所側の考え方、ご本人の状況の折り合いのつけどころを探すこと…これが専門家としての腕の見せ所でもあり、組織も個人もWin-Winを目指して支援しています。

自殺予防対策事業の支援

 こころと身体の専門家として、行政や健康づくり団体、民生委員、食生活改善委員、ゲートキーパーなどに対して、メンタルヘルスの正しい理解、傾聴技法などの周知も行っています。この活動は、産業保健看護活動とは少し離れるかもしれませんが、医療機関としての地域貢献にもつながる活動です。

事業所からみた柔軟な資源の活用に向けて

 大規模事業所は仕組みや人的資源もあり、自社内での対応が可能だと思いますが、高知県では自社内で産業保健スタッフを構えられる事業所は非常に限られています。公的な支援はさんぽセンターなど、個別の健康相談は、当院のようなEAP活動をしている資源を活用できるよう情報提供しています。
 メンタルヘルス不調の場合は、医療機関を受診するという形が多いのですが、組織の中でその不調者が仕事することを考えると、単に治療していれば安心というわけではなく、どのように組織と個人が理解しあって進んでいくかという産業保健や看護の視点が大事になってきます。事業所から見ると、その時々によって適切な支援機関につながること、そして本人を含めて関係者が連携できることが大切で、日々奮闘しています。

これからの産業保健活動

 今後は、体力のある事業所には産業保健師の採用を検討してもらうこと、そして、これまで何度か支援してきた事業所が自立できるような支援、まだ産業現場の保健師活動を知らない小規模事業所に対しては、「その事業所で簡単にできる活動」を伝え、産業保健の重要性を感じてもらえるような小さな一歩の活動を増やしていきたいと考えています。
 大企業で活躍する保健師とはちょっと違う活動かもしれませんが、高知県の事業所&働く人々が少しでも元気で長く働き続けられるような職場づくりに、少しでも近づけるように進んでいきます。


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