本連載では、職域保健の現場で活躍されている方にさまざまな取り組みをご寄稿いただいています。今回より、高知県における行政分野での産業保健活動の取り組みと、新型コロナウイルス感染症下の教育体制の現状と課題についてシリーズでお届けします。今月は、高知県東部・中芸地域における行政分野での産業保健活動の取り組みについて、前中芸広域連合地域包括支援センター長の廣末ゆかさんにご紹介いただきます。 (編集部)
私は、自治体保健師として22年間、今年3月まで勤務しておりました。最初の10年間は、田野町保健師として着任しました。その後合併しなかった5町村において、平成21年度より、中芸広域連合に保健福祉課が設置され、保健福祉業務の一部を担うこととなりました。その後平成29年度より4年間、当連合介護サービス課地域包括支援センターにて勤務しました。今回は、地域包括支援センター(行政)と民間の医療・介護の事業所とで取り組み始めた「中芸で支える医療・介護の体制づくり~『働くを守りたい!働きやすい中芸地域づくり』プロジェクト」ついてご紹介させていただきます。
中芸広域連合は、高知県東部にある5町村(馬路村・安田町・田野町・奈半利町・北川村)から構成された自治体です。総人口約1万461人、高齢化率(65歳以上の割合)43.4%(2020年)の少子高齢化の進んでいる中山間地域で、「2050年問題」は既に2017年に到来しています。
介護現場においては、介護職の高齢化や人材不足の上に、人材確保も難航しています。また、多くが小規模事業所であり、経営や運営困難となり廃業に追い込まれ、新たな利用サービスの確保も難しくなってきております。
当自治体では、住民と共に創る地域づくりだけでなく、必要なサービス確保のできる持続可能な介護の体制づくりにむけて、介護事業所と共に動き始めました。
当センターで開催しているケアマネジャー定例会(年間10回)において、「訪問介護サービス利用が難しくなってきた」「ヘルパーが足らない」という声が上がってきました。
平成30年度、中芸地域にある4つの訪問介護事業所の現状を調査し、現状を知ることから始めました。まずは、4事業所の1か月間の事業実績からデータ分析し、結果に基づいて、4事業所の管理者に集まってもらい、意見交換を行いました。人材不足からくるヘルパーの労働衛生の問題があがってきました(図1)。
令和元年度には、課題解決の方向性を決定するために、介護職の人材育成や労働安全衛生などに卓越したアドバイザーを招聘し、さらに検討を重ねていきました。その結果、当自治体の介護事業所のネットワークを構築しながら、研修体制や事業所が主体となって課題解決に向けた取り組みのできる体制づくりをしていこう、と方向性を決定しました。
図1 4訪問介護事所の管理者らと意見交換をした結果(平成30年度)
令和2年度8月に第1回目の会議を開催しました(写真1)。構成員は、介護事業所や介護部門をもつ医療法人の管理者、各構成町村の介護担当課長と社会福祉協議会などで、35名の参加でした。職場の労働安全衛生やメンタルヘルスについての基本的知識について共有し、その後、当自治体内の介護施設や介護事業所、医療機関などで働く全職員を対象に腰痛チェックとメンタルヘルスの調査を実施しました。調査結果より、働き続けられる、働きやすい職場づくりにおける課題も見えてき始めました。第2回目の会議では、アンケート結果を報告し、健康課題の共有をしました。
写真1 小規模法人事業所ネットワーク構築に向けての会議風景(令和2年8月26日)
平成2年度には、前年度の構成員の意見から、「人材確保」「人材育成/依頼労働安全衛生」「生活支援体制づくり」の3部会を設定し、ワールドカフェ風にワークショップを行い、活発な意見交換がなされました(写真2)。令和3年度より、本格的に課題解決に向けた上記3つのテーマを部会開催で展開していきます。
写真2 令和2年度小規模法人事業所ネットワーク会にて3つのテーマで行ったワールドカフェの様子
当自治体は、人口減少や高齢化の加速などにより、公的支援の危機に直面しています。我々は、介護現場の現状を住民に知ってもらい、住民同士であるいは住民と共に何ができるか、知恵を出し合い、支えあい活動が少しずつ動き始めています。
生活支援とは何か、介護とは何か、私たち行政は、住民と専門職と共に、官民協働で立て直しが必要となってきているのではないでしょうか。今回の取り組みを通じて、住民の健康づくりと同時に、職域の健康づくりに、一緒に取り組む地域づくりが求められ始めていると痛感しております。