映画館で「中島みゆきライヴ・ヒストリー2007-2016」を鑑賞した。今年分の感動を早くも使い果たしたかのような充足感だ。
客席では各曲で老若男女が鼻を啜っていた。眼鏡を取り、涙を拭いているのが間隔を空けて座っていても分かる。彼女のコンサートでよく見られる光景だ。
この人は一体歌で何人の命を、生活を、魂を救ってきたのだろう。神格化するつもりはないのだが、普段流さない分の涙も鼻水も全部分かってねぎらってくれるような優しくたくましい歌声に、日頃大人顔で生きている大人たちも込み上げるものがあるのかもしれない。
今落ち着いて、なぜ彼女の歌にこれほど心が揺さぶられるのか考えてみた。彼女の歌には全身全霊の激励があると思うのだ。慰めではなく、励ましだ。それに私たちは大体みんな、傷ついている。私達を傷つけてくる人も同じだろう。攻撃的になったり意地悪になってしまうということは、その前に傷ついているということだ。そうやっていらいらは回り回っているのだと思う。その割に、渾身の励ましを送り、受けることはこのコロナ禍、めっきり減った。海を見て心が洗われる効果とほとんど同じように、言葉や歌による激励を求めるのかもしれないと一人で納得した。
逆を言えば威圧的な言葉の威力たるや、いとも簡単に人のやる気をくじくだろう。そこに権力勾配があればなおさらだ。来たる4月、改正労働施策総合推進法が中小企業を含める形で全面施行になる。パワハラ防止措置が義務化になるのだ。どうせ言葉に乗せて感情が回り回るなら、激励が循環する職場が増えてほしい。 (斉藤由香)