フィンランドの疫学調査
不眠の原因についてはさまざまな研究がなされていますが、なかには反対の結果を示す報告があげられてきたものがあります。例えば、月経周期のプロゲステロンの変動が睡眠を妨げるという研究結果がある一方で、女性ホルモンは不眠に影響しないという報告があるのがそれです。そこで、フィンランド公衆衛生局とヘルシンキ大学の研究グループは、ホルモン避妊薬(OC)の使用と不眠が関連するのか否かを大規模コホートで調査しました。
同国の社会保険登録データからOCの使用実績(緊急避妊薬の使用者は除外)のある女性とない女性、それぞれ約29万4千人(年齢と居住地でマッチング)を抽出し、合わせて約59万人を2年間追跡した結果、約1万1千件の不眠症初診例がありました(1,000人年あたり9.67)。不眠症の女性1例(症例)に対し、同じ時点で受診せず不眠症は発生していない対照4例(OCの使用/非使用はまだ不明)を無作為に抽出し、それぞれの群の中で、OCを使用していた女性の割合(同時点から6か月さかのぼってOCの処方が2回以上あった場合)を調べました。
その結果、例えばエチニル・エストラジオール(EE)あるいはエストラジオールを含有するOCの場合、症例群の使用/非使用の比を、対照群の使用/非使用の比と比べると0.84となり、OCを使用した女性の割合は不眠症の群の方で低くなっていました。つまり、このタイプのOCを使用していた女性は、どのOCも使用しなかった女性より不眠症が少なかったというわけです。EE配合OC(ドロスピレノン、シプロテロン)でみても0.83、0.81と、不眠症のリスクは低くなっていました。
一方で、黄体ホルモン単剤(ミニピル)の場合は1.06と不眠症の群の方でわずかに高くなっていました。ただし研究者らによると、症状の重い不眠の患者はOC使用にかかわらず他の原因の影響が大きいことに注意する必要があるとコメントしています。実際に3次病院(大学病院)で診断された症例で解析すると、リスクの差はほぼなくなっていました。
参考 Partonen T, et al. Sleep Medicine. 109(2023)