◆開かれた性教育
約7割が仏教徒であるスリランカでは、過去数十年で若年の自殺者は減り続けていますが、一方で服毒(多くは農薬)による自殺企図の件数が増加しています。その原因には、性に関係するトラブル―例えば恋愛関係のもつれ、未婚の妊娠、親子間の摩擦などとそれらを取り巻く根強い社会規範があります。男女とも性に関する話題を控えること、特に婚前女性は性の知識を持ってはならないという考え方がある一方、包括的な性教育を普及させる必要があるという意見があります。
自殺企図に注目して、英国ブリストル大学と現地のペラデニア大学は共同調査を実施しました。中毒病棟に搬入された患者約300人と、年齢(平均26歳)・性別・その他で選んだ対照者(同じ病院の外来患者)に対面インタビューを行い、これまでに性教育を受けたことがあるか否か、受けたと答えた場合、その内容は実際に役に立ったかどうかを聞き取りました。
その結果、性教育を受けた割合は、対照者の約78%に比べて自殺企図の患者は約65%と低く、受けた性教育の内容は役に立ったと答えた割合は、対照者の約72%に対し、自殺企図の患者は約56%でした。自殺企図の患者は性教育を受けていないか、あるいは受けても役に立たなかったと答えた割合が対照者の割合に比べて相当高いことが分かりました。
これらのことから、性教育は、若年者の自殺へと向かわせることをある程度抑止できる可能性が示唆されました。研究者らは、性教育といえども避妊と性感染症を教示するだけではなく、WHOの「包括的セクシュアリティ教育(CSE)」が示すような対人関係・男女関係、性アイデンティティなど、より広い開かれた内容が必要だと言っています。一方で、実行する際の障壁は、性教育に対する家族からの批判、教師の羞恥心や性活動を煽るかもしれないという不安など、保守的なスリランカにおける学校性教育のハードルは高いと考えています。
参考 Crowley G, et al. BMC Public Health. 2022, 22;26