この10月末で、本会クリニックが45年間の診療施設としての幕を閉じることになりました。思春期婦人科外来として歴史のある場所であり、私たち思春期保健相談士にとっても経験を生かせる場所でもありました。
本会が最初のクリニックを四ツ谷の主婦会館に開いたのは1978年。翌79年、性教育がまだ浸透していない時代、同クリニック内に電話相談室をスタート。正しい情報が入ってこない時代。子どもたちのリプロダクティブ・ヘルス/ライツ(性と生殖に関する健康と権利)が守られ、全国に性教育が浸透していった原点といえます。
思春期保健セミナー、受胎調節実地指導員認定講習会、指導者のための避妊と性感染症予防セミナー(SHRセミナー)の各講義では、必ず市谷クリニックの症例が上がり、その中で北村先生や杉村家族計画研究センター長、相談員の体験談を聞くことができ、現場でも生かせるものが多くありました。また性教育の重要性や関り方も改めて考え直すことができ学びがありました。
自身の職場で若年妊娠・中絶の対応をする際、親御さんから「(子どもに)普通の学生生活を送ってほしかった」と言われることがあります。ご本人には自分のからだと心を大切にするためにも、信頼できる大人を味方に付け悩みを話せる環境づくりが重要だと話すようにしています。また失敗ではなく生きる糧にしてほしいと伝えるようにしています。これは思春期の緊急避妊、月経困難症やPMS、STIの治療、デートDV、性的マイノリティーの相談でも同じであり、自分が対応できないことは、思春期相談LINEや公的な相談、学校カウンセラー、児童精神科などの情報を提供するように努めており、このような考えは相談や外来に関わってきた中で身に付いたものだと思います。
北村先生のご著書『ティーンズ・ボディーブック』(中央公論新社)の中の言葉“自分で守れ。君のからだ、君の人生”は私にとって忘れられない言葉の一つです。
私も思春期の子どもがおり、たくさんの人のサポートや知恵を頂き子育てをしております。この市谷クリニックでの時間を通して、親としても思春期に関わる指導者としても貴重な経験を持つことができました。
世代に合った包括的な性教育が必要とされる現在。思春期相談も柔軟に対応できるLINEへと転換し、相談内容も活字の性的描写で驚かされることもあります。リアルタイムの返信ができないことがあり、デメリットと言えるかもしれませんが、一方で冷静に読み直してスタッフ同士で相談でき、適切な回答ができることはメリットであると言えます。クリニックと電話相談で培い積み重ねたのものは新しい幡ヶ谷事務所に移転しても生かされ、新しいステージに向かっていくことは間違いありません。