「ただ話を聞いてほしい、それだけなのですが大丈夫ですか?」
「はい。不妊や不育に関して、胸の内の話したいことをお聞きするためのホットラインですから、どうぞ安心してお話ください。」
「でも、何から話せばいいのかわからないのですが…」
とにかく、ただ話を聞いてほしいとおっしゃる方ほど、なかなか言葉が出てこないことが多いと感じます。言葉に発すると同時に涙がともなうことも多く、その時は「焦らないでいいですよ、待っていますからね。」と伝えます。
先日、初期流産を繰り返す方のお電話を立て続けに担当したことがありました。ある方は、「自然妊娠で2回、体外受精で2回、初期流産を繰り返していて原因は不明。PGT-A(着床前診断)は保険適用外なので、保険適用回数の間は、今の治療を繰り返すと先生は言っている。同じことの繰り返しで意味はあるのか?」。ある方は、「自費診療でPGT-Aを行った上で、体外受精を複数回やっているが妊娠できない。治療に専念するために仕事も退職した。先生も誠意を持って治療してくれているし、原因不明だから繰り返すしかないことは理解している。分かっているけれど、毎回失望を繰り返して、どうしようもなく不安で眠れない日も多い」と話してくださいました。
また別の方は、「これまでの人生では努力すれば必ず結果が出ていて、それで難関な受験も就職も乗り越えてきた自信がある。でも、どれだけ努力しても妊娠しない。答えがなくゴールのないことに向かって、どうすればいいのか全然分からない」と怒る方もいらっしゃいました。
いつまで続くのか分からない治療、同じ治療をなぜこんなに繰り返さないといけないのか、本当に私は希望通り子どもが持てるのか、今の私は周囲の人からどのように見られているのだろうか、このままでは社会の中で孤立してしまうのではないか、そもそも「なぜ私だけ子どもが出来ないのか、なぜ私なのか」などなど…。
女性も男性も、性に関係なく、不妊・不育に向き合わなければいけないことで様々な感情が生じます。悲しみ、怒り、苦しみ、失望、嫉妬、不安、孤独、疑問など、あらゆる感情によって大きく傷つくことがあります。パートナーを傷つけてしまうこともあるかもしれません。
電話をとった当初は泣いてしまって話ができない方や、怒りで感情が溢れていた方も、話すことによって次第に落ち着き、声に明るさを取り戻す様子が感じられます。人に話すことで気持ちが和らいだり、混乱していた感情が整理できているのかもしれません。「誰にも話せないことだから電話しました」と勇気を持って心の扉を開けてくださったことを受け止め、いつも安心して話せる場所であるよう寄り添っていきたいと思っています。