電話相談員として多くの相談に回答してきました。男女共に性の悩みに大きな時代の変化はありませんが、私が相談員を始めた20年程前に比べると女性の月経に関するトラブル、避妊や妊娠不安には、低用量経口避妊薬(OC)、月経困難症治療薬(LEP)、緊急避妊薬(EC)、ミレーナ(IUS)など医療現場で提供できるものも増え、具体的な解決方法を示すことができるようになりました。しかし、内容によっては相談者が期待する回答を返せないこともあります。
LINE相談に女子高校生から、「強い性欲で数学の勉強になると集中できない。すぐに効果が出る方法を教えてほしい」という相談がありました。同様な相談に回答してきたように、「心と身体に変化が起こる時期であり、問題はなく、多くの人が感じ、悩む時期でもある。上手に時間や生活を工夫し、また、積極的に気分転換を図っていくのはどうか」など複数の相談員が複数回対応しましたが納得しません。「他に方法がありませんか」と繰り返すばかりでした。そこで、LINE相談前にお答えいただく基礎データに居住場所が東京と回答されていたため、高校生なら料金が550円なので、ユースクリニックで相談しては―と提案し、対面での相談に切り替えました。
目の前に座る彼女は聡明で、LINE相談でのアドバイス、自分でインターネットから収集した情報など知識は十分に持っていました。「大人は、『自分もそうだったとか、自然、健康である、自慰で性欲コントロールを、気分転換を』と言うけれど、自分には余裕がなくて納得できる状況ではない。自慰で時間を無駄にしたくはない。どうにか性欲を今すぐになくして、来週の試験で成績を上げたい。夢があるのです」と切実に訴えてきました。
性欲も人が生きていくための基本的欲求の一つ、食べたい、寝たい、排泄したいと同じで大切だから、劇的に排除する対処方法などはない、と伝えながらいろいろ話しましたが、納得する回答にはたどり着けませんでした。「成績が上がらない原因は性欲のせいである」という考えが変わらなければ、解決に至らないのではないかと思いましたが、さすがに成績を上げるのは「工夫次第」「やる気次第」「集中力も実力」などとは言えず、互いに不完全燃焼という雰囲気になってしまいました。対面だから伝えられる表情、態度で誠意を示し、彼女の悩む気持ちを傾聴、辛いねと共感し、一般的なアドバイスをすることで、着地点が見えて終結するのではないかと高をくくっていた自分の甘さと力不足を実感する、苦いケースでした。
明確な答えがあると思って来所したはずです。これほどまでに性欲にこだわる背景には何かトラブルはなかったのかなど、思いを至らせる視点は他にもあったに違いありません。本当の意味で相談者の悩みに寄り添うことができず、まだまだだなあと反省。今後も研さんを怠らぬよう、経験にあぐらをかかぬようにと自らを戒め、今後も努力してまいります。