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第813号

 東京都不妊・不育ホットライン 相談員 佐々木 良枝

 最近立て続けに「SNSを使った第三者からの精子提供」についてのドキュメンタリー番組を見ました。男性不妊に悩む方がネットを通じて精子の提供者と知り合い、その場で精子をもらうのだそうです。取材に応じた男性はボランティアで、必要経費のみの支払い、もちろん性行為もなし、「善意の協力者」ということでしたが、番組を見た後モヤモヤした感じが残ってしまいました。
 日本でも非配偶者間人工授精(AID)は行われてはいますが、実施機関は非常に限られています。また対象は戸籍上の夫婦であることなどさまざまな条件があり、さらに出自を知る権利の問題との兼ね合いなどにより精子提供者が減っているとも言われていて、利用のハードルは高いのが現状です。
 不妊の電話相談でもAIDについてのご相談は一定数ありますが、それほど多くはありません。AIDを決意した当事者にとっては本会相談が得意とする、気持ちの部分を聴いてもらうことよりも、情報を集めることの方が優先されるからではないかと想像します。
 SNSは今や私たちの日常に欠かせないものとなり、情報も商品も、何でもすぐ手に入る時代ですが、精子もスマホ1つで手に入るという手軽さに、違和感や怖さを覚えるのは私だけでしょうか。もちろん、利用する人たちは深く悩み、追い詰められ、真剣に考えいろいろ情報を集める中でこのような方法にたどり着いたのでしょう。けれど、そこにはさまざまな大きな問題が含まれていると思います。
 例えば、その番組で取材を受けていた精子提供者の男性は、すでに複数の女性に自分の精子を提供し、子供も生まれているとのこと。当事者が知らない異母きょうだいが誕生していることになります。「人助け」という純粋な気持ちとはいえ、法整備も整わず倫理上の問題も十分に議論されないまま、現実だけが先に進んでしまうことは、この先に大きなリスクをはらんでいるのではないでしょうか。
 多様性が尊重される昨今、これから同性婚も増えるでしょう。番組でも、同性カップルがSNSを通じて知り合った男性から精子提供を受けていました。人生の選択肢が増えるのは素晴らしいことですが、AIDが治療の選択肢として安心して受けられる状況が整っていくことを願っています。
 今後そういう方々からの電話相談が増えるかもしれません。私たち相談員もさらに幅広い知識、新しい知見を得ていかなくてはなりません。また、知らず知らずのうちに持っているジェンダーバイアスや思い込みに自分自身が気付いていることも大事だと思います。余談ですが、少し前にアイドルグループ嵐の『櫻井翔と相葉雅紀 結婚』というタイトルでニュース報道があった時、この二人が結婚したの? とネットがざわついたということを知りビックリしました。私は当然それぞれが女性と結婚したものと思ったからです。言われてみれば、確かにその二人が結婚したっていいのか…と、あらためて自分の頭の固さを反省したのでした。


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