ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第80話>予算委員会に向けて
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫
1999年2月5日、社民党の横光克彦議員から電話が入った。2月15~17日のいずれかの予算委員会で30分程度の時間をもらえることが決まったというのだ。党の承認も得ているので、この機会にピル承認に向けた戦いの最後の賭けに出ようかとの提案だった。「雛(ひな)祭りプロジェクト」の話を反故(ほご)にして、4月か5月か6月かなどと厚生省は言い始めていることから、この機会を逃すなとの叱咤(しった)激励の言葉もあった。
医薬安全局に「ピルの審議の見通しについて」などと、無意味な問い掛けをするつもりは毛頭ない。「ただ今審議中です」で答弁が終わってしまうわけだからだ。関係各部局の仲間と、ざっくばらんに話し合ってみると、誰もが、ピルの認可を先延ばしにすることの医薬安全局の怠慢さを叫んでいること、特に中西明典局長が標的になっていることを知った。保健医療局に「ピル承認を間近に控え、担当部局としてSTDを含むHIV/エイズ対策の方向性を示していただきたい」について尋ねるのはいい。「感染症新法で対処する所存です」と答弁するだろう。「母子保健の立場からわが国の避妊や中絶の現状と問題点を」には「世界の避妊法選択と日本の避妊法選択の違いや中絶の実態は…」と回答されるだろう。環境保健部も「ピルと環境ホルモンとの関係については、全くの白ではないし、全くの黒とは言えない」となるだろう。しかし、総務審議官お一人で厚生大臣答弁の全てをチェックし、整合性を取る限り、いずれの答弁も、「中央薬事審議会での慎重な審議が行われている」で終わってしまう可能性はないだろうか。同じ厚生省内での意見の不一致はあってはならないことであるし、あるはずがないのだから。いずこも、心の中では「ピルがこのような扱いを受けているのはおかしい」と思いながら、省内の意見不一致を恐れて、ピル問題に対して極めて消極的な医薬安全局サイドの発言に終始したら、日本の厚生省が本当の意味で笑い者になってしまうのではないかと心配になっていた。
筆者の親友である良識ある多くの厚生技官たちを不良識の徒にするのは、とても心が痛む。としたら、内山常任部会会長に参考人招致をお願いし、全てを語ってもらうというのも一法かなと真剣に考えた。「毎日新聞社やNHKの取材に対して、常任部会会長としての率直な意見を述べておられますが、何を根拠にそのような発言をされているのか」と。「結局は何が障害になっているとお考えか」と聞くのもいいかもしれない。
審議のスムーズな進行のために、この貴重な30分間の演出を直接横光議員から任されることになり久しぶりに心が躍った。