ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第78話>「外圧に負けた」と言われないように
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫
「外圧に負けた?」。1999年2月8日から12日にオランダ・ハーグで開催されるICPD+5。94年にエジプト・カイロで開かれた国連主催の人口開発会議(ICPD)から5年目を迎えての国際会議でのやりとりを恐れている言葉だ。筆者の周辺でも国際会議に向けて、わが国のピルを巡って、どう準備するのかなど、いささか騒々しくなっていた。
同年1月25日、家族計画国際協力財団(ジョイセフ)に事務局がある人口問題協議会にハーグに参加予定の北谷勝秀さんと原ひろ子さんが出席され、ハーグ会議出席への意気込みを語っていた。NGOフォーラムでピルが取り上げられることを当然だと考えており、日本政府の対応の遅れに外国からお灸(きゅう)を据えてもらえばいいんだと、やや投げやりな発言が目立った。折しも、1月26日午後3時からバイアグラ承認の報せも入り火を付けてしまったようだ。ここぞとばかりに、外国メディアがピルの承認を先延ばししている日本政府を叩くのではないかと危惧されているが、外国メディアからピルに関する質問があったら「ICPD+5とは関係ない」と回答させることなども話し合われた。3月開催予定の常任部会までに、ICPD+5からのニュースが届き、『日本のピルの動向に興味津々』『外圧で認可の方向へ』のイメージが高まり、委員たちの気持ちを硬直化させないか不安がないわけではない。
1月29日には、阿藤誠ハーグ会議日本政府委員団長の立場で質問の場が持たれた。ピルの審議が遅れていることの理由を英語で説明するのはどうしたらいいかということだった。例えば、「バイアグラが先に、しかも、短期間で認可されながら、ピルの認可が遅れていることについてはどう説明されるか」。これに対して、現職課長は、「バイアグラは私が就任してからのこと。ピルは40年間懸案事項でして、とても一筋縄ではいかない」とコメント。科学的な問題というよりは、長年の国民のアクセプタビリティ(筆者注:受容能力)の問題ではないかと、その意識は変わりつつあり、認可に向けて着実に進展している。事実、外国メディアでさえ、数年前は、HIV/AIDSに関して日本はピルが承認されていなくて幸運とまで言っていたし、議員だって反対の人はいたわけだ。そして何より、認可する予定がなければ、申請はさせないわけで、審議を行っているということは承認に向かっていると考えるのが妥当ではないか。
若手官僚の独り言ではあるが、「阿藤団長にお願いしておいたことは、外圧ではなく、大臣が自分の政治的意志で決断できるような環境をつくってほしいので協力いただきたい。大臣の手柄となるように」と。