ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第75話>薬の男女差別? バイアグラ vs. ピル
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫
1999年の新年早々、産経新聞を飾った記事が注目を集めた。佐藤好美記者による記名記事だが、「男性の性的不全の治療薬バイアグラが申請から半年という異例のスピードで認可される一方、女性の経口避妊薬ピルは30年以上認められないことに関係者から疑問の声が上がっている」から始まる。
バイアグラはこの前年(98年)12月、厚生省の中央薬事審議会の2つの部会を通過。1月にも製造・輸入が正式承認される。「新薬の承認はスピードアップの方針」という厚生省が、海外の臨床試験データを一部利用して審査の時間短縮を図り、申請からわずか半年のスピード承認となりそうだ。背景にはバイアグラが認可されないまま並行輸入で出回るなど人気が過熱していたことが挙げられる。昨年夏には死亡例も報告されており、「早く認可して医療機関を通す正規ルートに乗せた方が安全」(厚生省筋)との判断があった。
厚生省のある官僚の元には昨年夏、国会議員の一人から「わたしもバイアグラを試してみたい。治験をやっている大学から入手できないか」との電話要請があったという。自民党の小委員会でも「最近話題のグレートドラッグ(バイアグラ)はどういう(審査の)状況か」との質問も出るほどで「(認可するかどうかの)圧力にはならないが、過熱ぶりは分かった」(厚生官僚)との声も。
一方、女性が使用する経口避妊薬ピルは昭和40年(65年)ごろ最初の申請が出て以来、審議の凍結や再開を経て30年以上、避妊用としては認可されないまま。この間に、より安全なホルモン量の低いものも開発され、一般的な使用で97%という高い有効性が確認され、日本国内でも昭和60年(85年)代に2年がかりで5千人の女性を対象に大規模な長期試験が行われた。ある厚生官僚は「歴代の大臣や局長が反対だったり、とかく政治マターであることは間違いない」と証言する。(中略)
これに対し、厚生省の中西明典医療安全局長は「薬はそれぞれの問題点を踏まえて審査している。性に関する医薬品という点では似ているが、バイアグラは日本にも患者がいる勃起不全の治療薬。治療薬は安全性と有効性を天秤にかけるが、健康な女性が使うピルは安全性を最大限、配慮することが重要だ」としている。
これを機に、国内外のメディアは日本のジェンダーバイアスについて一斉に報道。ジャパンタイムズは、バイアグラを新幹線に、ピルをトロッコに例えてイラストで表現。IPS(国際プレスサービス)では2月20日に、米誌ニューズウィークでも「The Great Viagra Emergency」をテーマに2月8日、筆者のコメントを紹介しながら記事をまとめている。