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ピル承認秘話

ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第74話>『バイアグラ』スピード承認への疑問(私見その2)

第842号
ピル承認秘話
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫
 1992年3月、読売新聞のスクープからはじまった「ピル認可凍結、エイズ拡大の懸念」が、ピルの審議に大きな影響を及ぼしてきたことは事実である。1997年3月には、中央薬事審議会が公衆衛生審議会に、「ピル認可に関する意見」を求めるなど、新薬の審議としては異例ずくめの措置がとられてきた。結論としては、「エイズ予防キャンペーンの実施」や低用量ピルの処方に際し、性感染症などの検査を行うなどの提案がなされている。「低用量ピルの使用に関するガイドライン」でも、性感染症の検査の実施を積極的に謳っている。その一方で、勃起不全に対する治療薬として発売される『バイアグラ』が、必ずしも夫婦間あるいは恋人間で使用されるという保障はない。今回の『バイアグラ』承認騒動を見てもわかるように、大金をはたいてでも購入しようという意図に、勃起不全の深刻さとともに、婚外性交への期待感が隠されているように思われて仕方ない。としたら、「エイズの拡大を懸念」の審議が行われてしかるべきではなかっただろうか。ピルを服用する女性はハイリスクで、『バイアグラ』を使用する男性には問題がないかのような対応は矛盾に満ちてはいないか。
 低用量ピルには副作用があることは常に問題視されている。ピルがいかに低用量化されたとしても、副作用を回避することはできない。ピルに限らず薬剤とはそういうものだ。そのことを承知しながらピルを処方するのは、その副作用に比べて避妊効果を含めた副効用への期待が大きいからだ。ピルの認可に向けた審議の遅れに、血栓症を始めとした副作用の問題が解決していないとの声も聞く。医師は、ピル服用に伴う重篤な副作用を回避するために、服用禁忌や慎重投与を決めているのだが、十分理解されていないようだ。
 それでは『バイアグラ』についてどうだろうか。1998年3月末の発売以来7月までの間、360万処方が調剤されているが、この間に、『バイアグラ』を処方された後に死亡した123症例が米国食品医薬品局(FDA)に報告されている。『バイアグラ』の使用と、死亡との因果関係は明確ではないが、わが国においても、死亡例が報告されており、薬剤の使用に伴う副作用は必然であることを認めた結果に他ならない。としたら、低用量ピルの副作用をことさら問題にすることはどうだろうか。
 低用量ピルの認可が異常なほどに遅れている理由の一つには、少子化への懸念があるとも聞く。性のモラルが乱れるとの危惧と合わせて常に語られてきたことだ。これとは対極の扱いともいえる『バイアグラ』の早期承認は、多産化への期待の現れとでもいうのだろうか。


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