1992年4月9日付け日本経済新聞夕刊には、「エイズ患者・感染者急増、ピル解禁遠ざける…正しい知識の普及こそ急務」の文字が躍った。
何人かの識者が、この記事中でコメントしている。以下、原文のまま引用させてもらった。
●山形操六氏(エイズ予防財団専務理事):ピルとエイズが直接、関係ないことは分かっているが、コンドームの普及に努めている今。ピル解禁はマイナスになりこそすれ、プラスにならないと考えている。
●堺宣道氏(厚生省保健医療局結核・感染症対策室長):(エイズ感染者の急増ぶり。今年2月までの2か月間に国内で見つかった患者・感染者は58人。昨年1年間では前年に比べ2.5倍近くに増えた。)ピルの意義は十分に認めているが、その解禁が即、ノーコンドームといった風潮になるのを恐れる。
●加藤哲也氏(承認申請中の製薬会社9社の一つ、日本シエーリング医薬営業統括部参事):OC(経口避妊薬)連絡会という任意団体を組織しているが、審議会の方針にはお手上げ状態。科学的には問題がないと考えていた。しかし、エイズという社会問題になると、製薬会社が答える範囲を超えている。
●北村邦夫(日本家族計画協会クリニック所長):審議会の過程で何が起こったのかが公開されず、不透明だ。しかも薬事審議会配合剤調査会はピルの安全性と有効性を検討・調査する機関であって、それ以外の要因で認可を先送りするのは問題。エイズのまん延防止に必要なのは、正確な知識の普及と性教育の推進、適切なコンドーム使用の徹底に尽きる。エイズを避妊のためのピルと同次元で論ずることはできない。(世界主要国の中でもピルを解禁していないのは日本とアイルランドだけ。最近のエイズ旋風の中でも、ピルを禁止した国はない。)
●丸本百合子氏(同愛記念病院産婦人科医師):(そもそもピルは全面的に禁止されているわけではない。月経困難症の治療薬に使われ、現実には避妊目的で約50万人の女性が飲んでいると推定されている。しかし、それはホルモンの量が多い中用量ピル。現在、ホルモンの量も少なく、副作用が少ない低用量ピルが開発されている。)質の高い薬品があるのに、不必要に濃度の高いピルを飲まされているのは問題。一部の人の性行動を理由に、特定のパートナーとの性交渉をもつ人のピルを選ぶ権利を奪うのはおかしい。
●高橋久美子氏(女性グループ「女のからだと医療を考える会」):女性の体への安全性についての研究を離れて、ピルが国から規制をうけることに憤りを覚える。