1978年7月から79年5月まで、「家族計画」では10回連載で「すすむ避妊技術 WHOの研究成果を中心に」と銘打った国立病院医療センター産婦人科の我妻堯医長(当時)の記事が掲載されている。世界でピルが避妊薬の一つとして登場して以来、当時既に20年近くが経過しているにもかかわらず、わが国では、依然として「副作用の恐れ」「人体に有害」など、はっきりした根拠のない理由で、ステロイド剤の内服による避妊法を厚生労働省が公式には認めていない状況が続いている。前号でも指摘したが、これを我妻氏は次のように語っている。
「世界の他の国で、政治的理由で家族計画そのものを認めない(アルゼンチンなど)、リズム法しか認めていない国はあるが、国の政策の中で家族計画を認め、比較的自由に人工妊娠中絶を行うことができる状況でありながら、一方でピルを避妊法として承認していないのは、わが国だけであり、極めてユニークな存在と言えよう」
ピルについても、ペーパーピル、休暇用ピル、1か月1回ピルなど、成分だけでなく、飲みやすさや利便性を重視したピルが次々と開発され、実用化への道を拡げていた。ペーパーピルとは、オブラートのように胃の中で溶ける薄い紙状のものに、ピルと同じ成分が染み込ませてあって、1日分を切り取って服用する方法。休暇用ピルは、夫が家から離れた場所に働きに行っていたりして、休暇で家庭に帰ってきたときに、妊娠を防ぐ目的で短期間服用するように作られたピルのこと。成分としては合成プロゲステロンが使われていたようだ。1か月1回ピルは、ステロイド剤を1か月に1回内服する方法である。このように、中国などを中心にステロイド剤を使った避妊法の開発が進む中、WHOでは11もの研究班を立ち上げ、最新の避妊法や中絶技術研究を進めていた。①長期間有効薬剤(注射法)に関する研究②着床阻止、子宮内避妊器具(IUD)に関する研究③受胎期推定法(定期禁欲法)に関する研究④出生抑制に影響する植物に関する研究⑤出生抑制へのプロスタグランジンの応用に関する研究⑥人工妊娠中絶の影響に関する研究⑦男性避妊に関する研究⑧免疫学的避妊法に関する研究⑨卵子輸送制御法に関する研究⑩精子移動制御法に関する研究⑪経口避妊薬に関する研究。
コンドームについても、我妻氏は、「使わないよりも、使った方が、より快適になるようなコンドームを開発したら、もっと多くの男性が使用するだろう」というトンガの研究者の発言を紹介しており、一つの真理を突いていたと述べている。