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ピル承認秘話

ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第25話>ひと足先にIUD解禁、申請から42年

第793号
ピル承認秘話
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫

 中央薬事審議会は、1974年7月29日の常任部会で、2種類の避妊リングの製造申請を承認すると斎藤邦吉厚生大臣(当時)に答申していたが、8月4日正式に承認された。承認されたのは、太田リングと優生リングの2種類。ご存じのように、避妊リングは正しくは子宮内避妊器具(IUD)と呼ばれ、人口爆発に悩む東南アジアなどでは、早くから避妊法のエースとして承認されていた。しかしもともとは32年、わが国の太田典礼氏の考案により開発されたもので今回の製造承認は、わが国で初めてIUDがデビューしてから42年が経過していたことになる。
 わが国での承認が延び延びになっていた理由は、①戦前は「産めよ、殖やせよ国のため」の風潮が強く支配していたこと②36年には内務省から「細菌感染の恐れがある」ということで、「有害避妊器具」に指定されたこと―などが挙げられる。
 戦後は太田氏から49年に承認申請が提出されるも、不承認になっている。その後、さらに研究を重ね65年に再度承認申請を提出した。今回も材質、作用機序、障害などの副作用の点で問題があるとして中央薬事審議会の医療用具特別部会を中心に日本母性保護医協会(現日本産婦人科医会)、日本産科婦人科学会、IUD調査会などの専門機関で9年間も掛けて審議されていたために長引いたものと見られる。
 IUDがなぜ避妊効果が高いかについては、はっきりした作用機序は解明されていないが、「子宮の中へ異物を挿入するために、受精卵が子宮に着床するのを防止するのではないか」ということが定説になっている。このため、避妊効果は97~98%と非常に高く、使用を止めれば妊娠できるという利点もある。
 このIUDは、これまでわが国で全く使用されていなかったわけではなく、医師の研究用としては使用が認められており、現在でも100万人の女性が使用しているものと見られている。事実、毎日新聞社の世論調査では65年(4.3%)、67年(6.1%)、69年(7.2%)、71年(8.1%)、73年(9.0%)と年々増加していき、現在では避妊実行者のうち10人に1人はIUDを使用していることになる。なお厚生省は、今回のIUDの承認に当たって向こう3年間は企業に対して副作用報告を義務付けている。(「家族計画」第246号、74年9月1日)
 日本で最初に開発されたと言ってもいいIUD。その承認まで42年も掛かったとの記事を前に、筆者としては、ピルの承認までの道程が44年を要したことについて「さもありなん」と感慨深い気持ちで受け止めることになった。



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