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ピル承認秘話

ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第15話>世界ではピルを巡って議論が

第783号
ピル承認秘話
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫

 日本でピルの承認に向けて厚生省が積極的に動き出していたさなか、避妊目的でピルを服用する者が百万を超えようとしている世界各国ではピルを巡ってさまざまな議論が交わされていた。
 1960年に世界で最初に承認されたピルがエナビット10(ノルエチノドレル9.85mgとメストラノール0.15mgの配合剤)。その1年後にはエナビットを服用した女性の肺塞栓症の症例が報告されている。これは下肢静脈に発生した凝血塊が循環して肺に達し、致命的な肺塞栓症を引き起こしたと考えられる。その後、数例の症例報告がなされたことから世界各国での研究が進んだ。
 米英における研究では、主としてエストロゲン量が0.05mg以上のピルが血栓塞栓症の発生頻度を高めるとの報告をまとめた。これによれば、ピル使用者の血栓塞栓症の発症リスクが非使用者の4.4~9倍。しかし、ピルを中止した後にも、高いリスクが継続するという報告はなかった。このような研究結果を踏まえて、エストロゲン量の低用量化が進行することになる(北村邦夫:ピルと血栓症、臨床婦人科産科50(10):1308-1331、1996)。
 しかし、これまで米国ではエナビットを投与された5万人の女性については、医師側では何の副作用も現れなかったと報告されてきており、医薬食品局側でもエナビットによる血栓症に注意を怠らないが、警告を出すほどには至っていないとしている。米国政府保健当局では、製造発売側に新薬を提供することについて強く自粛を要望、取り締まりを一層厳重にするとした。62年のことである。(「家族計画」62年12月20日号)。
 64年7月21日付、ガーディアン紙(英国)によれば、同月20日、マンチェスター会堂で開かれた英国医学会の年次総会において、ジェラード会長(産婦人科医)は、「経口避妊薬を社会的な理由で試みるならば、女性達は集団実験に参加しているのであり、モルモットといってよい。多くの人々は、この薬剤を長期間服用しても害はないということに疑問を持っている。つまり、長期にわたってバランスのとれた機構を乱すことはどうかというわけである」と挨拶し注目された。また、「最近、糖尿病患者は服用しない方がよいという兆候が現れている」とも述べたが、7月26日のサンデイ・タイムズ紙でも「経口避妊薬はどの位安全か」という見出しで、ジェラード博士の談話を中心に大々的に取り上げている。ピルについては、やはり英国の専門医師も大きな不安を抱いていることを物語っていると言えよう(資料:国際家族計画連盟西太平洋事務局、「家族計画」64年10月20日号)。



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