前号でも紹介したが、本会機関紙「家族計画」では、1964年9月5日、経口避妊薬(ピル)について、主な産婦人科医・学術経験者に対して往復葉書を送付。今回は、産婦人科医の意見を抜粋して紹介したい。
*足髙芳雄(大阪大医学部教授) 毒薬も用い方で良薬となる。英米を始めヨーロッパでも経口避妊薬は許可されている。正しい使用法は産婦人科専門医師の指導によってのみ可能である。(もとより副作用の防止についても)日本の優生保護法が年間100万の人工妊娠中絶の不法の罪過を作っている現状では、先ず経口避妊薬の販売を許可し、併せてこの悪法を撤廃すべきである。社会風教の問題はコンドームでテストずみ。
*渡辺金三郎(名古屋市立大学教授) 優生保護法指定医の診断と指導のもとに、同医師のみに投薬せしめ、一般の薬剤師に取り扱わせぬ。使用期間を当分の間2年とする。性の問題はこの薬の使用とは別問題で、現在でも人工中絶の実態は驚くべきものがあり、人工中絶の弊害の方が大である。性道徳の向上を計ればよい。
*鈴木雅洲(新潟大学教授) 医師の処方がある場合にのみ、医師の監督下に使用しうる。大衆に全面的に自由に内服されることは、医学的にも性道徳的にも好ましくない、全面的に禁止するのは原始国家ならともかく、文明国では医学の発達を阻止することで好ましくない。
*前山昌男(奈良県立医大教授) 1.経口避妊薬の管理法 2.万一、妊娠が成立した場合の処置 3.内分泌系に及ぼす影響 これらの諸問題が十分検討、解決される必要あり。
*足立春雄(徳島大学教授) 既に本邦及び外国でのデータにより学問的に発売を拒否することはない。逆淘汰の問題は人工中絶でもいえることで、適当な専門家の指導観察の下で差し支えないわが国の薬の販売方法にこそ政治的な改革が望ましい。
*岩津俊衛(千葉大名誉教授) 産婦人科医の私としては、大変結構な薬だと思いますので発売に賛成です。然し一社会人としての私は経口避妊薬として売り出すことには反対であります。こうなると医師の手から離れた問題であります。一般社会の判定に待つべきでしょう。優生保護法が性の乱れを来すといわれる以上に、この薬は性の乱用になりましょう。女子高校生が本剤を愛用したとき、私は寒心を覚えます。私の考えでは、次官会議か閣議か、国会で決すべきで、産婦人科医が本剤使用許可後の結果について責任を負うことはマッピラであります。結論としては麻薬に準じる取扱いとなりましょうか。