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ピル承認秘話

ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第9話>日本家族計画連盟―承認反対で建議

第777号
ピル承認秘話
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫

 1964年7月、日本家族計画連盟は、経口避妊薬委員会の名で、経口避妊薬の認可について、時期尚早とした建議書を提出している。
〈建議〉 今回厚生省が審議中の経口避妊薬の使用許可について、われわれは慎重かつ重大な考慮をはらわれんことを要請する。その理由は下の諸点である。
一. 本剤は一般薬剤と異なり、健康な婦人が長期間服用するものであるが、この長期使用の結果については、未だ内外の学会から確定的な報告がでていない。
二. 現下のわが国における社会情勢においては、未成年者などに本剤の使用範囲が拡大する恐れが多分にある。
三. 現在日本における売薬慣習上、たとえ要指示薬としてあつかわれるとしても、これが完全に守られうる保証はない。また処方を医師のみに任せるとしても、医師がその使用者に対して十分な監視を行うことは現状では不可能である。
 以上の諸点にかんがみ、われわれは経口避妊薬の使用許可は、未だ時期尚早であると信ずる。(昭和39年7月27日 社団法人日本家族計画連盟経口避妊薬委員会)
 この建議作成に、大きな影響力を有していた国立公衆衛生院(現国立保健医療科学院)衛生人口室長の村松稔氏が「反対論」について解説している。(以下抜粋)
1. 風教上の乱れ
 医薬分業の不完全さは、薬局から指示薬品の流出を招き、青少年の不良化、犯罪などに拍車をかけないか。すでにアメリカでは問題となっている「性交あそび」も予期され、その害毒は「睡眠薬あそび」の比ではないだろう。
2. 医学上の問題
 ホルモン剤の長期投与によって、健康な婦人を常に妊娠状態にしておくこの薬品について、学問的に十分だといいきれる結論はどの学会でも出していない。アメリカでも二年以上使用の場合の人体に及ぼす影響については結論がなく、長期副作用の結果が分からない。ガン、血栓性静脈炎、奇形、腎臓病、更年期の問題など疑問がある通念として、薬とは人体の苦痛障害を除去するものであるのに、これは人体の自然な機能を故意に異常状態に変化させるもので、現実に薬の概念を逸脱していないか。
3. 売り方、飲み方の問題
 要指示薬品としても、抗生物質や睡眠薬のように、一度売り出されたら乱用される恐れがある。
4. 費用
 一月だいたい千円から千五百円、場合によっては二千円もかかる。
5. 人口問題
 完ぺきな効果をもつという本剤を許可して出生率の低下に追い打ちをかける必要がどこにあるか。
(「家族計画だより」第83号、1964年9月15日号) 



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