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ピル承認秘話

ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第7話>不運なピル ー サリドマイド薬害事件

第775号
ピル承認秘話
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫

 大日本製薬、塩野義製薬、帝国臓器などが、保険適用を有したピルを避妊薬として厚生省に申請したのが1961年。折から、米国ではエナビットを服用して血栓性静脈炎にかかり死亡したという事例が報告されている。また、黄体ホルモン製剤の服用による女児の半陰陽、さらには薬事法の不備から来る睡眠薬遊びの流行などなどピル承認に向けた動きにはほど遠い状況にあった。
 それに拍車を掛けたのが、サリドマイド薬害事件の勃発であった。50年代末から60年代初めにかけて、世界40か国以上で、鎮痛・催眠薬として発売されていたサリドマイド。この薬を、つわり止めの目的などで服用した妊婦が被害者となった。サリドマイドは妊娠初期に服用すると、アザラシ肢症、難聴、内臓疾患など胎児の手や足、耳、内臓などに奇形を起こすことで知られている。
 西ドイツの製薬企業が開発した非バルビツール系の鎮静・催眠薬だが、57年大日本製薬が独自に製造し、厚生省に承認を申請。当時は包括建議といって、海外で使用されている有名医薬品については簡易な審査で良いとの慣習があって、サリドマイドはわずか1時間半の審査で承認されたという。不幸だったのは、西ドイツでも発売前であって、副作用情報が十分でない状況下での承認となったことだった。結果、確認されたいるだけでも、サリドマイド被害者の数は、全世界で5800人、ドイツ3千人、英国350人、日本309人と報告されているが、日本の場合、流産や死産などを加えると相当な数に上ることになる。
 国立公衆衛生院の久保秀史(当時)は、「64年頃には承認見込みだった経口避妊薬。なぜ未だ承認されないのか、関係者間にも確実な情報をつかめる者はなく、おそらく現厚生大臣(神田博、第一次佐藤栄作内閣)の在任中は承認されないだろうという見方も出ていた。製薬会社は、厚生省から求められた追加資料を提出していたことから、まさに承認されようとした時、例のサリドマイド薬害事件が起こった。この事件が起こらなかったら、経口避妊薬は承認されていたかも知れない」と述べている。(「家族計画だより」)。時期が時期だけに、薬の恐ろしさと、世間の批判から厚生省としても、慎重にならざるを得ず、厚生省は製薬会社に対してさらに実験項目をいくつか追加したのだが、この追加実験も各社次々と完成させて提出。厚生省は許可しないでおく理由がなくなっていたのだ。
 
参考資料
 1、 佐藤嗣道:サリドマイド事件の概要と被害者の今
 2、 家族計画だより(第87号 経口避妊薬 その後、昭和40年1月15日) 



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