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ピル承認秘話

ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第1話>1999年9月2日

第769号
ピル承認秘話
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫

 1999年9月2日。通常の診察日ではない木曜日の午前中であったにもかかわらず、15人ほどの女性が、待合室を埋め尽くしていた。中には、パートナー同伴の女性もいた。どこからともなく届けられた豪華絢爛(けんらん)な花。女性たちを囲むように、国内外のメディアが殺到していた。英国国営放送(BBC)のクルーが、女性たちの許可を得た後、英語でインタビューを始めていた。筆者の手にはシャンパンが握られ、掛け声とともに、コルクが天井に飛んだ。その瞬間をカメラは逃がさなかった。口々に、「おめでとう!」の声を上げ、握手の輪が拡がった。
 この日、低用量経口避妊薬(ピル)が発売されたのだ。クリニックの受付には、当日、午前9時半に届けられた9社11品目のピルが所狭しと並んでいた。わが国で一番にピルが届けられるクリニックであってほしという筆者の無理難題に、薬の卸業者が応えてくれたのだ。これまで、中・高用量のピルを処方されていた女性たちには、この日ばかりは、低用量ピルとの無料交換に応じた。
 それにしても、この日を迎えるまでに、尋常でない時間が経過していることをどれだけの人がご存じだろうか。
 一例を挙げれば、日本は国連加盟国中最後のピル承認国という恥ずべき勲章を与えられていた。国際家族計画連盟(IPPF)に問い合わせたところ、北朝鮮には94年からピルの供給を開始していたというし、世界で最初の承認国であった米国での発売は60年。わが国は、米国に40年近く遅れたことになる。
 子宮頸がんの原因ウイルスであるヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨の差し控えが起こってからこの6月で6年目に入るが、HPVワクチンが広く使用され、ようやく子宮頸がんに対する予防効果が明らかになったと誇らしく報告する世界の国々からは想像もつかない状況に置かれている日本。ピルの承認の遅れの理由を探るにつけ、HPVワクチンと何か共通の問題があるように思えるのは筆者だけだろうか。
 「ピル承認秘話―わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)―」の連載が、本号からスタートする。
Memo
ピル:エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)を化学的に合成した配合剤。現在では、7日間休薬をとる21錠タイプ、休薬をとらずに偽薬を服用する28錠タイプ。両ホルモンの配合比を一定にした1相性、3段階にした3相性。プロゲステロンの種類が異なるピルがある。エストロゲン量が50μgのものを中用量、それ以下を低用量、それ以上を高用量と定義している。また、2008年からは、月経困難症の治療薬としてLEP剤(低用量エストロゲン・プロゲステロン製剤)も発売されている。



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