ピル承認秘話
–わが国のピル承認がこれほど遅れた本当の理由(わけ)–
<第67話>ピルを選択する自由を女性の手に
一般社団法人日本家族計画協会 会長
北村 邦夫
1998年3月30日、日本家族計画連盟の加藤シヅエ会長から「再び、低用量ピルの早期認可を訴える―ピルを選択する自由を女性の手に―」と題する要望書が、当時の小泉純一郎厚生大臣宛に送られている。
冒頭には、3月2日に開催された厚生省中央薬事審議会(以下「中薬審」)常任部会で、ピルの審議が振り出しに戻った感があると書いている。中薬審は、ピルと子宮頸(けい)がんの関係や医師のためのピル処方ガイドラインに加え、ピルが内分泌かく乱化学物質(通称“環境ホルモン”)として環境や人体に影響をおよぼすか否かを検討することを新たに提起したからだ。特に、“環境ホルモン”については「私たちの疑問と反論」として次のように主張している。
- 現時点でピルと“環境ホルモン”を関連付けることは非科学的であり、いたずらにピルへの誤解と不安を増すだけだ。“環境ホルモン”は、むしろ、ゴミ焼却炉から排出されるダイオキシンや殺虫剤、合成洗剤、プラスチック、電気設備等々に含まれる合成化学物質に深く関わる問題である。
- 全体を論じるあまり個人の選択を軽視してはならない。ピルはあくまで個々の女性が「選択して」使う避妊薬であり、ダイオキシンのように多数の人間に無差別に影響をおよぼす化学物質ではない。ピルは「意図的に」自然の女性ホルモンに似せて作られた合成ホルモンであり、その意味でも「たまたま」女性ホルモンのような作用をしてしまう“環境ホルモン”と同一に論じられてはならない。
- ピル認可は政府の「男女共同参画2000年プラン」実現に必須の条件である。国際人口開発会議(カイロ、1994年)、第4回世界女性会議(北京、1995年)で提唱されたように、避妊法の選択肢を保障することは女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツを実現する必須条件である。1996年に総理府男女共同参画推進本部(本部長=内閣総理大臣)は「男女共同参画2000年プラン」を発表し、その中で「生涯を通じた女性の健康支援」をうたっている。ピルの早期認可はこのプランの実現に不可欠である。
- 厚生大臣の発言はいわば公約であり、厚生省にはその実現に責任がある。1996年、当時の菅直人厚生大臣は外国人記者クラブでの会合で翌年のピル認可を示唆した。これは大臣という公人としての発言であり、所轄官庁である厚生省もまたその発言に対し責任を負うものと考える。
- 中央薬事審議会に審議および情報の公開を望む。昨年公衆衛生審議会は公開でピルの審議を行った。今後はその例にならい、中薬審の会合および審議結果を国民に広く公開することを強く要望する。